母国を追われた草いじり令嬢は、敵国で『宮廷植物医』として新生活を満喫しています~元婚約者様と義妹、お元気ですか? 貴重な植物が全て枯れ、さらに私が渡した大事な園芸書を燃やした?じゃあ、もう無理ですね~
第12話:宮廷植物医、枯死した植物から毒を検出する
彼女の提案を聞いたジュリエットは納得したように頷く。
「なるほどね、それは可能性がありそうだ。あんたに言われるまで視野が狭くなっていたよ。さっそく、あたしの研究室に行こうじゃないか」
エーデル帝国の宮殿には、ベルナデッタが滞在する本館の他に別棟がいくつかある。
主に騎士団の兵舎や武器庫、食料庫などとして使われていた。
ジュリエットの研究室もそのうちの一つで、四階建ての別棟が一棟丸ごと支給されている……と入り口で聞いたベルナデッタは驚いた。
「これが全部ジュリエットさんの管理下にあるんですか。王国でもここまでの規模の研究室はありませんでした」
「あんたはいつでも来ていいからね。調べたいことがあったら自由に使いな。後で鍵をあげようね」
案内されたのは、二階の真ん中にある部屋だ。
間仕切り壁を外して三つの部屋を繋げたためか、非常に広大なスペースだった。
「ここが一番よく使っている部屋だね。設備も一通り揃っているはずさ」
「なんて広いのでしょう……! こんな研究室なら仕事がとても捗りそうです」
「ありがとうね。あたしは狭いところが嫌いなのさ」
壁際の本棚には下から上まで本で埋められ、瓶に保管された薬草の類いも多々見られる。
鼻に抜ける清涼感ある薬品の香りにベルナデッタは懐かしさを覚えた。
研究室にはラルフとマティアスの他、キャシーもいる。
ベルナデッタがどのような仕事をするのか知っておいた方がいいと判断されたためだ。
ジュリエットは上着を脱ぐと、足早に出入口に向かう。
「今、サンプルを持ってくるよ。一番最近に採取されたものがいいだろう」
「お願いします。私も準備を進めておきます」
ベルナデッタは道すがら自室から取ってきた鞄を開ける。
植物の種や園芸道具の他、彼女が王国で開発した数々の試薬が収められていた。
手際よく準備を進めるうちにジュリエットが戻ってきて、ガラス瓶を三つ机に置く。
「待たせたね。枯死した植物と採取した土壌、枯死寸前の植物のサンプルだよ。これは……」
「ミルダ草ですね。元気のなさが辛くて可愛そうです」
「帝国の固有種なのによく知っているじゃないか。さすがだね」
ガラス瓶には、先ほど図鑑で読んだばかりのミルダ草が収められる。
本来ならハート型の葉は鮮やかな青色だが、枯死した個体は茶色く萎れてしまっていた。
もう片方はわずかながら青が残りつつも、ほとんどが茶に変色している。
茎も弱々しく垂れ下がっていることから生命の終わりが近いことが伝わった。
(待ってて。私が絶対助けるから)
決意を新たにしたベルナデッタは、まず三つのサンプルをよく観察する。
気づいたことを羊皮紙にまとめていきながら思考を整理し、今まで学んだ知識や経験から状態を類推していく。
(似たような症状を思い出して、ベルナデッタ)
彼女の強みは植物を愛する気持ちや、飽くなき探究心、それらに基づく豊富な知識、実務の手際のよさなど様々あるが、一番はその観察眼だ。
植物の状態や異変は観察するたび、彼女の記憶に深く刻み込まれた。
今まで扱ってきた、数え切れないほどの植物の光景が脳裏を駆け巡る。
病変は急速に広がることや、株や植物の種類は関係ないこと、そして茎も葉も根も症状が均一であることを踏まえると、結論はやはり毒だった。
(新種の病気の可能性もあるけど、この場合まずは毒から検討すべきでしょうね)
ベルナデッタは羊皮紙の束をジュリエットに渡す。
「アトラ王国において、魔石の粉や魔物の鱗など植物に毒性を持つ素材は192種類報告されています。これがそのリストです。エーデル帝国では何種類報告されていますか?」
「174種類だよ。王国の方が少し多いんだね。……ふむ、8割くらいは被っているようだね」
リストの毒性素材には王国の固有種もあったが、大部分は王国と帝国の両方に生息したり埋蔵されていた。
つまり、共通の毒性素材も多々あるということだ。
「今からこの192種類全てに対して検出を試みます」
「それは大変な作業になるね。あたしも手伝うよ」
「私も手伝おう」
ジュリエットとラルフの他、マティアスとキャシーも力を貸してくれた。
ベルナデッタたちは枯死したミルダ草の葉、茎、根を細かく切り取り、それぞれ小瓶に入れていく。
土壌のサンプルも小瓶に分けて詰めた。
結果として、合計768本の小瓶が並ぶ。
葉の列、茎の列、根の列、そして土の列と四列だ。
研究室は非常に広い部屋のため、机も大きくて助かった。
次に、ベルナデッタは鞄から木箱を取り出す。
中には透明の液体が入った小さな薬瓶が192本収められていた。
「これは私が開発した試薬で、一本が一種類の毒性素材に反応します。反応があれば、およそ三分ほどで色が変わります。……それでは、始めましょう」
みなで手分けして試薬を小瓶に入れる。
薬瓶も横一列に並べることで、どれに何を入れたかわざわざメモを取ったりラベルを貼るような必要はなかった。
(ベルナデッタはずいぶんと手慣れているな。何度も経験したことがよくわかる)
ラルフは静かに思い、その効率と手際のよさによってベルナデッタへの信頼はさらに増した。
(この中のどれかに反応があればいいけど……。帝国固有種の素材から作られたり、新しく開発された毒だったら少し面倒になるわね)
しばし、誰も何も話さずジッと待つ。
三分が経過したとき、じんわりと起きつつあった変化は、今や目で見てわかるほどはっきりしたものとなった。
息を呑んで見るラルフたちに、ベルナデッタは安堵とやるせなさが入り交じったような複雑なため息を吐く。
「……反応が出ましたね。やはり、枯死の原因は病気ではなく毒です」
192本のうち、四種類の毒性素材について染色が確認された。
葉、茎、根、土のいずれからもだ。
「なるほどね、それは可能性がありそうだ。あんたに言われるまで視野が狭くなっていたよ。さっそく、あたしの研究室に行こうじゃないか」
エーデル帝国の宮殿には、ベルナデッタが滞在する本館の他に別棟がいくつかある。
主に騎士団の兵舎や武器庫、食料庫などとして使われていた。
ジュリエットの研究室もそのうちの一つで、四階建ての別棟が一棟丸ごと支給されている……と入り口で聞いたベルナデッタは驚いた。
「これが全部ジュリエットさんの管理下にあるんですか。王国でもここまでの規模の研究室はありませんでした」
「あんたはいつでも来ていいからね。調べたいことがあったら自由に使いな。後で鍵をあげようね」
案内されたのは、二階の真ん中にある部屋だ。
間仕切り壁を外して三つの部屋を繋げたためか、非常に広大なスペースだった。
「ここが一番よく使っている部屋だね。設備も一通り揃っているはずさ」
「なんて広いのでしょう……! こんな研究室なら仕事がとても捗りそうです」
「ありがとうね。あたしは狭いところが嫌いなのさ」
壁際の本棚には下から上まで本で埋められ、瓶に保管された薬草の類いも多々見られる。
鼻に抜ける清涼感ある薬品の香りにベルナデッタは懐かしさを覚えた。
研究室にはラルフとマティアスの他、キャシーもいる。
ベルナデッタがどのような仕事をするのか知っておいた方がいいと判断されたためだ。
ジュリエットは上着を脱ぐと、足早に出入口に向かう。
「今、サンプルを持ってくるよ。一番最近に採取されたものがいいだろう」
「お願いします。私も準備を進めておきます」
ベルナデッタは道すがら自室から取ってきた鞄を開ける。
植物の種や園芸道具の他、彼女が王国で開発した数々の試薬が収められていた。
手際よく準備を進めるうちにジュリエットが戻ってきて、ガラス瓶を三つ机に置く。
「待たせたね。枯死した植物と採取した土壌、枯死寸前の植物のサンプルだよ。これは……」
「ミルダ草ですね。元気のなさが辛くて可愛そうです」
「帝国の固有種なのによく知っているじゃないか。さすがだね」
ガラス瓶には、先ほど図鑑で読んだばかりのミルダ草が収められる。
本来ならハート型の葉は鮮やかな青色だが、枯死した個体は茶色く萎れてしまっていた。
もう片方はわずかながら青が残りつつも、ほとんどが茶に変色している。
茎も弱々しく垂れ下がっていることから生命の終わりが近いことが伝わった。
(待ってて。私が絶対助けるから)
決意を新たにしたベルナデッタは、まず三つのサンプルをよく観察する。
気づいたことを羊皮紙にまとめていきながら思考を整理し、今まで学んだ知識や経験から状態を類推していく。
(似たような症状を思い出して、ベルナデッタ)
彼女の強みは植物を愛する気持ちや、飽くなき探究心、それらに基づく豊富な知識、実務の手際のよさなど様々あるが、一番はその観察眼だ。
植物の状態や異変は観察するたび、彼女の記憶に深く刻み込まれた。
今まで扱ってきた、数え切れないほどの植物の光景が脳裏を駆け巡る。
病変は急速に広がることや、株や植物の種類は関係ないこと、そして茎も葉も根も症状が均一であることを踏まえると、結論はやはり毒だった。
(新種の病気の可能性もあるけど、この場合まずは毒から検討すべきでしょうね)
ベルナデッタは羊皮紙の束をジュリエットに渡す。
「アトラ王国において、魔石の粉や魔物の鱗など植物に毒性を持つ素材は192種類報告されています。これがそのリストです。エーデル帝国では何種類報告されていますか?」
「174種類だよ。王国の方が少し多いんだね。……ふむ、8割くらいは被っているようだね」
リストの毒性素材には王国の固有種もあったが、大部分は王国と帝国の両方に生息したり埋蔵されていた。
つまり、共通の毒性素材も多々あるということだ。
「今からこの192種類全てに対して検出を試みます」
「それは大変な作業になるね。あたしも手伝うよ」
「私も手伝おう」
ジュリエットとラルフの他、マティアスとキャシーも力を貸してくれた。
ベルナデッタたちは枯死したミルダ草の葉、茎、根を細かく切り取り、それぞれ小瓶に入れていく。
土壌のサンプルも小瓶に分けて詰めた。
結果として、合計768本の小瓶が並ぶ。
葉の列、茎の列、根の列、そして土の列と四列だ。
研究室は非常に広い部屋のため、机も大きくて助かった。
次に、ベルナデッタは鞄から木箱を取り出す。
中には透明の液体が入った小さな薬瓶が192本収められていた。
「これは私が開発した試薬で、一本が一種類の毒性素材に反応します。反応があれば、およそ三分ほどで色が変わります。……それでは、始めましょう」
みなで手分けして試薬を小瓶に入れる。
薬瓶も横一列に並べることで、どれに何を入れたかわざわざメモを取ったりラベルを貼るような必要はなかった。
(ベルナデッタはずいぶんと手慣れているな。何度も経験したことがよくわかる)
ラルフは静かに思い、その効率と手際のよさによってベルナデッタへの信頼はさらに増した。
(この中のどれかに反応があればいいけど……。帝国固有種の素材から作られたり、新しく開発された毒だったら少し面倒になるわね)
しばし、誰も何も話さずジッと待つ。
三分が経過したとき、じんわりと起きつつあった変化は、今や目で見てわかるほどはっきりしたものとなった。
息を呑んで見るラルフたちに、ベルナデッタは安堵とやるせなさが入り交じったような複雑なため息を吐く。
「……反応が出ましたね。やはり、枯死の原因は病気ではなく毒です」
192本のうち、四種類の毒性素材について染色が確認された。
葉、茎、根、土のいずれからもだ。