母国を追われた草いじり令嬢は、敵国で『宮廷植物医』として新生活を満喫しています~元婚約者様と義妹、お元気ですか? 貴重な植物が全て枯れ、さらに私が渡した大事な園芸書を燃やした?じゃあ、もう無理ですね~

第18話:宮廷植物医、国民から賞賛される

 カッセル侯爵領の穀倉地帯が完全復活して、あっという間に十日が過ぎた。
 ベルナデッタはラルフの執務室で、金穂麦に関する報告を受ける。

「君に見せたいものがある。カッセル侯爵からの報告書だ。金穂麦の収穫量は歴代最高を記録したと書かれていた」
「よかったです。文面からも喜びが伝わってきますね」

 報告書の文章は今にも飛び跳ねるような形で、ニコラの嬉しさが感じられた。
 室内にはジュリエットとマティアスもいて、二人も喜びを露わにする。

「この収穫量なら帝国の食糧事情はかなり改善しそうじゃないか」
「ずっと改善の見込みがなかったのに、ベルナ嬢が来てからは一気に解決してしまったね」

 すでに相当量の金穂麦が輸送されている旨も書かれており、その情報もまた明るい未来を予期させた。
 ラルフは満足げに報告書をたたむ。

「彼は物流の才能があったらしい。通常より何倍も効率よく各地に輸送している。帝都にはすでに十分な量が運び込まれたし、地方にも満遍なく届く頃合いだろう。これもベルナデッタのおかげだ」
「ありがとうございます」
「では、バルコニーに行くか。そろそろ時間だ」

 立ち上がるラルフに、ベルナデッタは緊張感が高まる。

「あの……本当に私なんかが顕彰の機会をいただいてよろしいのでしょうか? アトラ王国の出身ですし……」

 この後、穀倉地帯復活の功績を讃えラルフによる顕彰式が行われるのだ。
 場所は宮殿のバルコニーなので国賓級の扱いとなる。
 金穂麦が流通し出しても、アトラ王国とエーデル帝国の敵対関係は変わらない。
 反発が大きいのでは、と顔が強ばるベルナデッタにラルフは頬を緩めた。

「心配することはない。君の功績は大変なものだし、善人であることは見ればわかる。国民たちも新しい宮廷植物医とは誰なのか非常に気になっている。彼らのためにもぜひ顕彰させてくれ」
「そうだよ、ベルナ。出身なんてどうでにいいさね。謙遜はときにしないことが礼儀になるのさ」
「国民のみんなもベルナ嬢に会いたくてしょうがないんだ」

 ジュリエットとマティアスも背中を押してくれ、ベルナデッタは不安が和らいだ。
 そのまま、一同はバルコニーに出る。
 眼下の宮殿広場には帝都中の住民たちが集まっており、今か今かと宮廷植物医を待っていた。

「ベルナデッタ、私の隣に立ってくれるか?」
「はい」

 二人を見るとざわめきは徐々に収まり、ラルフは淡々と切り出した。

「もうその目で見た者も大勢いることだろう。宮殿に育つ貴重なリーベルの樹、そしてカッセル侯爵が治める国内最大の穀倉地帯の復活……その両方を担ったのがここにいる宮廷植物医――ベルナデッタ・フォーセット嬢だ。彼女は類い希な植物に関する知識と経験、実務能力で窮地に陥った我が国を救ってくれた」

 住民たちは力強く拍手し、ベルナデッタを称える。
 穀倉地帯の復活は国民生活を迅速に元通りにし始めており、彼らは感謝してもしきれなかったのだ。
 間を取るラルフを見て本題が始まると察する。

「併せて、みなに伝えておくことがある。彼女は……アトラ王国の出身だ。諸事情により我が帝国に身を寄せる経緯となった」

 一転して、住民からはどよめきが生まれる。
 互いに顔を見合わせ、何事かを相談し合う。
 その反応に、ベルナデッタの表情は険しくなった。

(やっぱり、アトラ王国の名前は否定的な印象が強いみたいね)

 自分の立場がラルフに何かしらの迷惑をかけてしまうのが一番嫌だ。
 顔が強ばるベルナデッタに対し、ラルフは特段慌てることもない。
 彼が手で制すると広場は静けさを取り戻した。
 周囲を厳かな静寂が包む中、ラルフは力強く宣言する。

「確かに、我が帝国と彼の国は現在敵対関係にある。だが、だからといって彼の国の人間全てが悪ではないのだ。出身はその人物の人間性を決定づけるものではない。ベルナデッタ嬢は善人だと私が保証する。それでも文句のある者がいるならば申し出ろ。……私が直接話を聞こう」

(殿下……)

 民衆は拍手喝采で応え、広場は地鳴りのような歓声で満たされる。

「帝国に来てくれてありがとう、ベルナデッタ嬢!」
「あなたのおかげでまたパンを食べられるようになりましたわ!」
「これからもずっとこの国にいてください!」

 感謝の言葉は絶える気配がなく、ベルナデッタの不安や心配を完全に打ち払った。
 彼女は傍らに立つラルフに礼する。

「殿下、ありがとうございます。おかげさまで国民の方々にも認めていただけました」
「いや、私は事実を伝えたにすぎない。彼らが君を信頼するに至ったのは、君自身が必死に頑張ってくれたからだ」

 答えるラルフの顔に浮かぶ微笑みは、普段よりずっと印象深くベルナデッタの目に映る。

(この人といれば大丈夫……そう、強く思える私がいる)

「……はい」

 笑顔で頷いた彼女は正面を向き直す。
 眼下には多数の民衆が大きく手を振っていた。

(これからもたくさん頑張ろう。帝国のみんなのために、そして殿下のために……)

 手を振り返しながら、ベルナデッタは静かに強く思うのだった。
< 18 / 40 >

この作品をシェア

pagetop