母国を追われた草いじり令嬢は、敵国で『宮廷植物医』として新生活を満喫しています~元婚約者様と義妹、お元気ですか? 貴重な植物が全て枯れ、さらに私が渡した大事な園芸書を燃やした?じゃあ、もう無理ですね~

第2話:草いじり令嬢、敵国の皇太子に出会い新天地へ踏み出す

 退路を塞がれたベルナデッタは、緊張で強張りながらも冷静に問う。

「つまり、あなたたちは奴隷商人ということですか?」
「はい、そうなりますね。あなたは素直でしたからすごく楽な仕事でしたよ」

 行商人だった男は護衛の二人と笑う。
 面倒なことになった、とベルナデッタの顔は硬くなった。

(奴隷商人。最近はすっかり存在を聞かなくなったけど、こんな王都に近い街にも来るのね)

 街への道は塞がれており、逃げるのは厳しそうだ。
 ベルナデッタは腕力も走力もそれほどないので、ここは売買意欲を削ぐ作戦でいこうと決める。

「私は美人でもないし身体の均整が取れてもいません。奴隷としての需要は特にないと思いますが」
「あなたがそのようなことを気にする必要はありません。世の中には何かしらの物好きがいますから、市場に卸せば誰かしら買うのです」
「はぁ、そうなんですか。それで、どこまで行くんですか?」
「あなたの大好きなエーデル帝国です。王国の人間は裏ルートで高く売れるのでね。さあ、荷物を渡してもらいましょうか」
「離してくださいっ」

 元行商人は護衛に命じて、ベルナデッタのトランクを奪い取る。
 彼らは中身を探り始めると、植物の種が入ったいくつもの袋を見つけた。

「……なんですか、これは。土……?」
「植物の種です。どれも貴重なものなので零さないでくださいね」

 彼らはしばしトランクを漁っていたが、金目の物がないとわかるとベルナデッタに突き返した。

「あなたの有り金は帝国に着いたら貰いましょう。抵抗しても無駄ですよ。これでも、私には魔法の心得がありますから」

 そう言って、元行商人は空中に火球を生み出した。
 激しく燃える火はギルアンのものより何段階も力強く、それでいて安定している。
 魔法陣の緻密な術式を踏まえても、一目で手練れの魔法使いだと容易にわかった。
 どんな人間にも魔力はあるが魔法として使える人間は限られている。
 体系的な教養はもちろんのこと、本人の素質も重要な要素だ。

(全力で走っても逃げ切ることは難しそうね。この男は火球以外の魔法も使えるはずだわ。どうしようかしら)

 奴隷商人たちを睨みながら考えるベルナデッタは、ふと閃いた。

(もしかして、このまま言うとおりにしたら……馬車代が節約できるのでは?)

 先ほど提示された金額は寂しい懐には厳しかった。
 帝国と王国の通貨は異なるものの、お金はたくさん持っていた方が安心だ。

(よし、ここは素直に従って帝国の近くまで送ってもらおう。目的地が近づいたら"あれ"を使えばいい。意図せず"仕込み"がうまくいったから。この魔法使いもまだ気づいていないようだし)

 静かに思案したベルナデッタは、丁寧に頭を下げる。

「わかりました。奴隷になります」

 彼女は馬車の隅に座らされ、武装した護衛二人に監視されながら帝国に向かうのだった。


 馬車に揺られること、およそ三時間。
 国境付近に広がる深い森の中に入ると、魔法使いが何かしらの魔法を馬車全体にかけた。
 走っても周囲の小動物が逃げない様子から、何をしたのか想像つく。

(すごい精度の迷彩魔法ね)

 数ある魔法の中でも上位に位置する難易度だ。
 さらに奴隷商人たちは裏の抜け道を知っているようで、国境を守る王国騎士団の目を掻い潜り馬車を走らせた。
 あっという間に緩衝地帯の荒れ地に入り込んだところで、ベルナデッタは馬車を下ろされる。

「ここからは歩きです。逃げようとしても無駄ですよ」

 ベルナデッタは前後を護衛に挟まれ、荒地を北に歩く。
 捕まってから水も飲ませてくれないため喉が渇いた。
 状況は厳しいものの、彼女は決して希望を捨てたわけではない。

(やっぱり、“仕込み”には気づかれていないみたい。でも、今はまだ早い。一瞬の隙を狙わないと)

 魔法使いからも護衛からも警戒を感じる。
 未だ様子見が必要だと判断した。
 喉が張り付く不快な思いを感じながら歩くこと、しばらく。
 一同は小さな盆地のような空間に着いた。
 淵から眼下を見たベルナデッタは驚きを隠せない。

(まさか、これは……拠点? かなり大規模な奴隷商人だったのね)

 多数のテントが張られ、大勢の人間が歩き回る。
 本来なら捕らえた人間を入れるであろう、頑丈そうな檻も多数見られた。
 中には誰もいないのが不幸中の幸いか。
 顔が強張るベルナデッタに対し、魔法使いは余裕のある笑顔だ。

「見ての通り、あれが私たちの拠点ですよ。ここから各地に売らせてもらいます。いやはや、短い旅でしたが楽しかった」
「私は別に楽しくありませんでしたけど」

 話しながら、ベルナデッタは手早く周囲を確認する。
 彼女たちがいるのは岩陰であるため、眼下の拠点からは見えないはずだ。

(あそこに連れて行かれたらお終いだわ。あの大人数にはさすがに勝てない)

 自分たちの居場所に辿り着いたからか、奴隷商人たちの警戒は明らかに緩んだ。
 “仕込み”を使うのは今この瞬間だと、ベルナデッタは決意する。
 ふふっと静かに笑う彼女に、魔法使いは怪訝な目を向けた。

「おや、恐怖を通り越して楽しくなりましたか?」
「いいえ、違います。あなたたちはずっと王国騎士団の追跡に気づいていないようなので」
「なに……っ!?」

 彼らが後ろを振り向いた瞬間、ベルナデッタは自分の魔力を彼らにぶつけた。

(みんな……目覚めて!)

 彼女が念じると、魔法使いと護衛の衣服から大量の蔦が生え始めた。
 蔦は迅速に彼らの口を塞いで発声を封じる。
 さらに獣の頭を思わせる巨大な花が咲き、大きくその口を開いた。
 驚く三人にベルナデッタは淡々と説明する。

「それは〈ニブルフラワー〉と言いまして、端的に言うと食人花です。私は魔法が下手ですが、魔力を注ぐと植物の成長を促進できるんです」
「「……っ!?」」

 先ほど彼らがトランクを漁った際、種子が衣服に付着した。
 ベルナデッタが放出した魔力に触れたことで一気に花開いたのだ。
 締め上げられた三人は気絶し、力なく崩れ落ちた。
 彼女はホッと安堵のため息を吐く。

「ありがとう、あなたたちのおかげで助かったわ。今鉢植えを用意するからね」

 よしよしと撫でると、〈ニブルフラワー〉は嬉しそうに身体をよじった。
 食人花なのは確かだが、人を傷つけるのはこちらが攻撃しようとしたときだけだ。
 蜜は非常に甘く滋養作用もあり、優しく接すれば同じように応えてくれる花だった。
 フォーセット家から持ってきた鉢植えに土を入れ、〈ニブルフラワー〉を丁寧に植えたとき。
 魔法使いの男が音もなく立ち上がり、ベルナデッタは全身が強張った。

「ど、どうして……っ」
「植物の種を仕込んでいたとは驚きました。意外と強かな女性なのですね。防御魔法を発動していなかったら完全に気絶していたでしょう」

 その全身は薄っすらと青白い光で纏われている。
 ベルナデッタは〈ニブルフラワー〉を守るように抱き、じりじりと後ずさった。
 今すぐ逃げたいがトランクを広げたままだ。
 大事な種や園芸道具を置き去りにはできない。

「無傷で売りたかったですが仕方がない。少々手荒な対応を取らせてもらいましょう」

 魔力を凝縮した魔弾が放たれ、ベルナデッタは思わず目を瞑ってしまった。

(せめてこの子だけは……!)

 衝撃を覚悟した彼女が聞いたのは、魔弾が弾かれるガギンッという重い音だった。
 恐る恐る目を開けると、ベルナデッタの目の前に魔力の分厚い壁が展開されている。

(これは……?)

 知らぬ間に護衛の一人が立ち上がっており、彼が発動した魔法だとわかった。
 いったい何がと混乱する中、予想もしない現象が発生する。
 護衛の身体が淡い光に包まれ、まったく別の人間に――思わず見入ってしまう美しい男性に変わったのだ。
 目が眩むほど煌びやかな銀髪は後ろで一つにまとめられ、鋭い赤眼は紅玉の如く輝き見る者を引き込んで離さない。
 ギルアンなど足下にも及ばない芸術品のような男性で、彼の周囲だけ光芒が指しているのではないかと錯覚した。

(……え? ど、どういうこと……?」

 男性の見目というより展開に唖然とするベルナデッタに対し、魔法使いは大粒の脂汗を浮かばせる。
 その顔からは余裕が消え失せ、初めて見る恐怖の色が滲んでいた。

「な、なぜ、あなたがここに……!」
「君が知る必要はない」

 魔法使いはひどく焦った様子で魔弾を放つが、銀髪の男は落ち着いた表情で手を翳す。
 途方もない魔力の圧が発生し、魔弾ごと魔法使いを岩壁に叩きつけた。
 一瞬で終わってしまった戦闘にベルナデッタはただただ呆然とするばかりで、ハッとしたようにお礼を述べることしかできなかった。

「あ、あの、助けていただいてありがとうございました」

 銀髪の男は軽く頷いて答え、盆地の淵に近寄る。

「話は後だ。拠点の連中が気づいたらしい。気絶する寸前、この男が信号を発したようだ」

 男は魔法使いを指す。
 銀髪の彼が話すように、今や眼下の拠点は非常に騒がしかった。
 二人がいる上に向かって弓を構える奴隷商人も確認できる。

「これから少々戦闘になる。念のため防御魔法をかけさせてもらうが、君は岩陰に隠れていなさい」

 低く心地の良い声で言われると、ベルナデッタの全身は淡い緑の球体に覆われた。
 魔法に疎い彼女にも高密度の魔力で構成されていることがわかり、安心感が溢れる。

(なんだか……とても温かい)

 通常、防御魔法に温度はない。
 だが、彼女はたしかに陽だまりを思わせる温かさを感じたのだった。
 一歩前に出たラルフが手を翳すと煌びやかな魔法陣が出現し、そこから激しい稲妻が迸る。
 瞬く間に拠点を駆け巡り、全ての奴隷商人が倒れる様子がベルナデッタの目に入った。

「す、すごいですね。あんなにたくさんいたのに一瞬で倒してしまいました」
「これくらいは造作もない。後始末をするから動かないように」

 奴隷商人たちの横たわる地面には、次々と黒い穴が出現する。

(今度は空間魔法だ……)

 先ほどから、ベルナデッタは高難度魔法の連続に驚きが隠せない。
 ここまでの魔法使いは彼女も見たことがなかった。
 黒い穴は拠点の設備も全て吸収する。 
 広大な荒地には二人だけとなり、周囲には静けさが舞い戻った。
 防御魔法が解除され、いったい何者かと警戒するベルナデッタに男は丁寧に名乗る。

「騙すような真似をして悪かった。私はラルフ・エーデル。"冷眼の皇太子"と入った方が、君たちアトラ王国の人間にはわかりやすいか」

("冷眼の皇太子"……!?)

 言わずとしれた、敵国――エーデル帝国の皇太子で、魔法も武力も極めて優れると聞く。

(どうりであれだけの魔法が使えるわけね。話に聞く以上の魔法の腕前だったわ)

 一方で、『赤い瞳は殺した人間の血で染まっている』、『少しでも気に障ったらすぐ殺される』、『日常的に人を食べる』……などなど、嘘か誠か数々の恐ろしい噂がアトラ王国にまで届いていた。
 予想外の超大物に、ベルナデッタは慌てて頭を下げる。

「初めてお目にかかります。私はベルナデッタ・フォーセットと申します。アトラ王国の元伯爵令嬢です。まさか、エーデル帝国の皇太子様とは気づかず……数多のご無礼をお許しください」
「君が謝る必要はない。何も知らなかったのだから」
「寛大なお心に感謝いたします。しかし、なぜ奴隷商人に化けていらっしゃったのでしょうか」
「ああ、話すと少々長くなるのだが、君も当事者だ。きちんと説明させてもらう。彼らは”夜渡商団”と呼ばれる帝国で名の知れた奴隷商人で、魔法使いの男がリーダーだ。そして、かの魔法使いは元宮廷魔法使いなのだ」
「えっ……」

 淡々とした説明に、ベルナデッタは衝撃を受けた。
 エーデル帝国の宮廷魔法使いと云えば、世界トップクラスの実力者だ。
 森で見た彼の魔法が強力だったことや、言葉遣いが妙に丁寧だった理由にも納得がいった。

「宮廷魔法使いに気づかれずに植物の種を仕込むとは素晴らしい。蔦を開花させて縛るとは恐れ入った」
「ありがとうございます。うまくいってよかったです」

 称賛の言葉に首を垂れながら、なぜ宮廷魔法使いが奴隷商人を?と、疑問に感じる。
 そんなベルナデッタの気持ちを察したように、ラルフはため息交じりに言葉を続けた。

「半年ほど前、帝国全土を植物の奇病が襲った。農作物や薬草、その他重要な植物が根こそぎやられてしまった。幸い、食糧や薬は備蓄があるし肉や魚などには問題ないので、国民の生活は保障されている。しかし、貴族の間で厄介な問題が発生した。……植物の投機だ」

 供給が減れば需要が高まる。
 珍しい植物や重要な植物を我先に確保しようと貴族同士の大きな争いが発生したと聞き、ベルナデッタの胸は悲しみで満たされた。

(植物が争いの種になるなんて……)

「この愚かな争いで重鎮の多くが死んだり大怪我を負ったりと、国内は混乱に陥った。かの魔法使いもその影響で職を失ったようだ。だが、理由はどうあれ悪事を許すことはできない。何度も部下を返り討ちにした魔法の手練れだったことと人手不足の事情が相まって、私が直接潜入調査に出た……という次第だ。君のおかげで拠点を壊滅できた。感謝する」
「い、いえ、私は何もしておりません」

 ベルナデッタは苦笑いして謙遜する。
 彼女はただ馬車代を節約したかっただけだ。
 王国の人間も攫っていたことが判明したので今後より詳しく調査を進めていく……と聞いた後、ベルナデッタは“オービタル”の街で聞いた噂を思い出した。

「ついこの間も緩衝地帯で帝国の大規模な演習が行われたと聞きました。とても危機に陥っているとは思えなかったのですが」
「それはただのハッタリだ。私が魔法で出した虚像が演習を行った。君の住む王国と我が帝国は敵対関係にある故、内部の混乱を悟られないようという現皇帝――私の父の判断による。まぁ、父は騒動の過労で倒れてしまったのだが」
「そうだったのですか。初めて聞くお話ばかりです。それで皇帝陛下のご容態は……」
「大事ない。高山地帯の保養地で養生中だ。公務に戻るのはだいぶ先の話になるだろうがな。父の過労により、外遊に出ていた私は急遽帰還。現在は国の復興に尽力しているという次第だ」
「なんだか点と点が繋がった気分です。しかし、なぜそのような重要な話を私にされるのでしょうか?」

 いずれも極めて重要な情報であり、何より出会ったばかりだ。
 ラルフは質問に納得したように頷く。

「もちろん、理由がある。その前に聞いておきたい。君は我がエーデル帝国に行きたいと話していた。今もその気持ちに変わりはないだろうか?」
「ええ、それは変わりありませんが」

 ベルナデッタがそう答えると、彼はひと際真剣な眼差しで告げた。

「こんな話をするのは……君に助けてもらいたいからだ」
「えっ、私に……ですか?」
「ああ、そうだ。この世には攻撃魔法や空間魔法、回復魔法など様々な魔法があるが、植物に作用する魔法は存在しない。先ほど、君は〈ニブルフラワー〉を種から即座に開花した。これほど素晴らしい技術を持つ人間は他にいない。ぜひとも、その常識破りな力を借りたいのだ。……何もそれだけじゃない」

 ラルフは静かにベルナデッタに歩み寄る。
 不思議と威圧感などは感じず、逃げるようなことはなかった。

「奴隷商人にも物怖じしない毅然とした態度は立派だったし、失礼ながら君のトランクを森で確認したところ、植物に深い知識と経験を持つ女性だとすぐにわかった。何より、その手が物語っている。これまで植物と触れ合ってきた君の人生を」

 彼が掌で指し示す先には、ベルナデッタの手がある。
 ギルアンとセリーヌに「醜い」と蔑まれた、胼胝や肉刺だらけの手だ。
 名ばかりでも第二王子の婚約者だったからか、年頃の貴族令嬢からも似たような陰口を叩かれた記憶が蘇り、ベルナデッタの心を少なからず暗くした。

「私のこの手は……醜くないでしょうか?」
「君は何を言っているんだ? その胼胝も肉刺も、植物と真剣に向かってきたからできたものだろう。私から見たら、君の仕事に対する実直な思いと毎日が伝わる極めて素敵な手だ」

 ラルフの淡々とした言葉は、ベルナデッタの心に光となって差し込む。
 涙を流すようなことはなかったが、じんわりと胸が温かくなり心が弾んだのは確かだ。

「そう言ってくださって……とても嬉しいです」
「君が来てくれれば帝国の復興は一気に進むだろう。植物の専門家……そうだな、『宮廷植物医』として力を貸してくれないか? もちろん、できる限りよい待遇を用意する」

 ベルナデッタはやや俯きながらよく考える。

(帝国に行って植物の復活を手伝う)

 不安はないと言えば嘘になるが、願っていた帝国の植物と触れ合う生活が送れるだろう。
 何より……。

(植物たちが可哀想)

 ベルナデッタは植物が枯れて死んでしまうのが一番嫌だった。
 寿命であれば致し方ないが、病気など防げた原因で死ぬのは可哀想でならない。
 しばし逡巡した彼女は、やがて真摯な瞳で結論を告げた。

「わかりました。ぜひ、お願いします。どれだけできるかわかりませんが、精一杯頑張りたいと思います」
「ありがとう。宮殿のみなも喜ぶはずだ。さっそくだが、帝国には私の転送魔法で向かおう」
「転送魔法まで使えるのですか……!? 殿下は本当に規格外でいらっしゃいますね」
「別に大したことではない。私としては魔力を込めるだけで植物を成長できる君の方が……ところで、そろそろこの花を引き剥がしてくれると助かるのだが」

 先ほどから〈ニブルフラワー〉はラルフの頭を甘噛みしており、美しい銀髪は花粉まみれになっていた。
 そんな彼にベルナデッタは楽しい気持ちを押し殺しながら伝える。

「きっと、ラルフ様のことが好きなのでしょう。でも回収させていただきます。失礼いたしました」
「……次からは気をつけるように」

 不機嫌そうに呟くラルフから、隣に立つように言われる。
 鞄をしっかり持ったベルナデッタは、優雅に揺れる銀髪の隣で静かに思った。

(殿下は噂ほど悪い人ではないのかもしれない。……植物に優しい人に悪い人はいないから)

 空を見ると、吹き抜けるような青い空が広がる。

(いよいよ、私の新しい生活が始まるんだ)

 眩しく柔らかい白の光に包まれ、二人の姿は荒地から消えた。
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