母国を追われた草いじり令嬢は、敵国で『宮廷植物医』として新生活を満喫しています~元婚約者様と義妹、お元気ですか? 貴重な植物が全て枯れ、さらに私が渡した大事な園芸書を燃やした?じゃあ、もう無理ですね~

第23話:とある場所にて

 どこかの屋敷の暗い部屋で、何者かが悪態を吐いていた。

「おのれ、あの宮廷植物医め! 余計な真似をしおって……計画が台無しだ!」

 蝋燭の明かりはあるが顔は見えない。
 それでも、声の主は男だとわかった。
 彼は怒りのあまり室内の椅子を蹴り上げ机をも蹴り上げる。
 大きな音が響くが誰かが駆けつける様子はない。
 それもそのはず、この部屋は地下にあり屋敷の人間たちは存在すら知らないからだ。
 男は立ち尽くしたまま今後の立ち回りを思案する。

(この後はどうすればいい……。このままでは私は……)

 焦燥感に焼かれる胸を必死に押さえていたとき。
 机と椅子の他、唯一ある家具の大きな姿見が不気味に光った。
 鏡面に人間を思わせる影が浮かぶ。
 すかさず、跪いた男に影は重い声で告げる。

『実行犯が捕まったか。このままでは、お前にそれ相応の処罰を与える必要がある』
「お、お待ちください。ヴィクターと私の間には何人もの人間を通してあります。私にまで辿り着くのは至難の業でございます」
『だが、不可能ではない』

 影の声が静かに響き、男は押し黙る。
 先ほどまでは気にならなかった隙間風が、今はずいぶんとうるさく冷たかった。
 
『"冷眼の皇太子"は才知と行動力に富んだ人物だ。みすみす手がかりを見逃すような愚行はしない。着実に冷静にお前を追い詰める。一度私の協力を受けた以上、中断することは決して許さない。もし降りた場合、貴様の命はないと思え』
「……っ! し、しかし、これ以上の策がありません。余計な行いをすれば、それをきっかけに皇太子の捜査がより進む可能性が……」
『帝国は植物博覧会を開くようだな?』
「な、なぜ、それを……!」

 驚く男に構わず、鏡の影は言葉を続ける。

『アトラ王国では少々面白い事態が発生している。ベルナデッタに関わりのあった人間たちによってな』

 そのまま、影は新しい計画を授ける。
 静かに聞いた男もまたじわじわとあくどい笑みを浮かべた。

『……奴らの脱走はお前が実行しろ。私の授けた力があれば可能だ。帝国の国境警備を搔い潜ることは困難故、国境近くで待機させろ。いずれ好機は訪れるはずだ。今は待て』
「はっ! 必ずやお望み通りの結果を出させていただきます」

 影は姿見から消え、部屋には男一人となる。
 彼はくつくつと笑いをかみ殺す。

「待っていろ、宮廷植物医に"冷眼の皇太子"。お前たちを破滅させ……我が輩はこの国を手に入れる」

 蝋燭が揺らぎ、ヘスリング公爵家の現当主――コンラードの顔が照らされた。
< 23 / 40 >

この作品をシェア

pagetop