母国を追われた草いじり令嬢は、敵国で『宮廷植物医』として新生活を満喫しています~元婚約者様と義妹、お元気ですか? 貴重な植物が全て枯れ、さらに私が渡した大事な園芸書を燃やした?じゃあ、もう無理ですね~
第24話:宮廷植物医、帝国のほとんどの植物を回復させる
毒散布の犯人が捕縛されてから、あっという間に十日が過ぎた。
この件もラルフによって周知され、ベルナデッタは宮殿を歩くだけでも称賛される日々を送っていた。
そのような二人は今宮殿の敷地を歩いており、彼らの先にはドーム状の大きな建物があった。
全面ガラス張りで日光がよく注がれる構造だ。
ラルフが特別な鍵で魔法の結界を解除し、一緒に中に入る。
緑と花の香りが入り交じった深みのある空気がベルナデッタを迎えた。
深呼吸すると身体の隅々まで癒されるようだった。
ラルフが誇らしげな顔で周囲を――多種多様な植物が、力強く繁茂する空間を見渡す。
「この宮殿植物園が枯れ果てていたなんて、傍から見たら信じられないだろうな」
「そうですね。貴重な植物が多かったので元通りにできて私もよかったです」
「元通りどころではない。君が復活させてくれた帝国の今が……この宮殿植物園から伝わる」
話しながら、ベルナデッタの脳裏にこの三週間が思い出された。
彼女とジュリエットが開発した薬は、土壌の汚染に対して非常に強力な効果を発揮した。
ラルフとマティアスが大変に喜んだ光景は記憶に新しい。
効果が確認された後、まず行ったのは粒の形に製剤することだった。
マティアスの鳥ゴーレムを大量に使い、ベルナデッタが魔力を込めた植物の種とともに各地に撒く。
解毒薬と種の魔力は土壌で互いに反応し、植物を収穫可能になるまで一気に育てた。
結果、わずか三週間で国民生活が落ち着くほどまで帝国の植物事情は改善されたのだ。
今や、カッセル侯爵領だけでなく帝国内の主要な植物はほとんどが復活した。
金穂麦以外の穀物、豆類、野菜類、果物、糖料作物、香辛野菜に薬草……いずれも収穫されるや否や国中に運搬され、この国の生活は急速に平時に戻りつつある。
国民たちの喜びも凄まじく、連日感謝の手紙が宮殿に届いていた。
ラルフは近くに生えた煎じると滋養作用のある植物――グレイス草の葉を触れながら呟く。
「煤羅鳥を使った毒の散布方法から考えつくとは、君は機転が利く女性だ」
「カッセル侯爵領のように、地面を歩いて撒くよりずっと効率がいいですからね」
解毒薬と種の散布については、ベルナデッタが煤羅鳥の一件を参考にしたのだった。
マティアスが作った鳥ゴーレムは高性能なこともあり、予定よりずっと早く効果が出た。
テーブルの上に園芸道具を並べながら、ベルナデッタはラルフに問いかける。
「殿下、本当に私の作業を手伝ってくださるのですか? お忙しいのでは……」
「いや、幸いなことに時間はある。君が植物事情を改善してくれたからな」
帝国の植物が復活するにつれ、ラルフはベルナデッタの仕事を手伝ってくれるようになった。
今日もそうだ。
(王国にいたときは誰も手伝おうとしてくれなかったのに……)
ラルフの優しさが伝わり、彼女の心は日だまりのように温かくなる。
「……ところで、そろそろこの花を引き剥がしてくれるか?」
「はい、少々お待ちください」
緩衝地帯で芽吹かせた<ニブルフラワー>もここに置かせてもらっており、ラルフが訪れては彼の頭を甘噛みした。
ラルフが風魔法で花粉を除去した後、ベルナデッタは緊張しながら気になっていたことを尋ねる。
「あの……ヴィクターについてはどうですか?」
「捜査は順調だ。やはり、当初の想定通り黒幕がいた。だが、ヴィクターはその顔も名前も知らなかった。黒幕との間に多数の人間を介することで、捜査の手から逃れるつもりだ。引き続き着実に捜査を進め、必ず黒幕を捕らえるから安心してほしい」
「私にもできることがあったら仰ってください。なんでもお手伝いします」
「ああ、ありがとう。そのような機会はないと願いたいがな」
捜査についてうまくいくよう祈る。
同時に、やはりあの男についてもラルフに話しておきたくなった。
「その黒幕についてですが、私は……っ」
ベルナデッタは最後まで言えなかった。
ラルフが細く長い指で、彼女の唇を優雅に押さえたからだ。
緊張で急激に顔が火照るのを感じる中、ラルフは何も気づかぬ様子で話を続ける。
「君が想像している人物と、私が考える黒幕はおそらく同じだ。だが、まだ確固たる証拠がない。だから、今は黙っておくことを勧める」
「……んぁい」
何も話せぬベルナデッタがくぐもった声を上げたところで、ラルフはようやく自分の行動に気づいた。
「し、失礼! 申し訳ない、忘れてくれ!」
「い、いえ、どうかお気になさらず! まったく嫌ではありませんでしたから……えっと、今の言葉に別に深い意味はなくてですね!」
しばらく二人であたふたと慌てていたが、空気を切り替えるようにラルフがこほんと軽く咳払いする。
「さて、別件でベルナデッタに話しておきたいことがある。今、皇帝陛下――まぁ、私の父が保養地から宮殿に向かっているところだ」
「お元気になられたんですか!?」
「君が植物事情を改善してくれたおかげで、精神的な心労から回復できたんだ。栄養が取れるようになったことも大きい。だからありがとう、ベルナデッタ。君は帝国に欠かせない人間だ」
「こちらこそありがとうございます……お元気になられてよかったです」
皇帝陛下の容態はベルナデッタもずっと気になっており、回復と聞いて安心できた。
「父は今日の午後には到着するだろう。ベルナデッタを迎えた経緯や君の功績も手紙で伝えてあるが、到着次第正式に紹介したい。父に紹介次第、帝国民にも君の存在がお披露目となるだろう。心の準備をしておいてもらえるとありがたい」
「わかりました」
淡々と答えるベルナデッタだが、胸の奥では一つの小さな疑問が浮かぶ。
(紹介って……宮廷植物医、としてよね? もしかして……)
慌てて頭を振って打ち消す。
疑問に淡い願望が混じっていたことを恥ずかしく思ってしまう。
ベルナデッタは気を取り直して植物の剪定を始めようと、大きな枝鋏に手を伸ばす。
「では、殿下そろそろお仕事を……」
「重いから私が取ろう」
二人の指が触れ合う。
「「あっ……」」
同時に手を引っ込め、無言の時間が訪れた。
たちまち、ベルナデッタは顔が熱くなるのを感じ、何も話せなくなってしまった。
(な、なんで、こんなにドキドキするの。ただ、指が当たっただけなのに)
彼女は気づかなかったが、それはラルフも同じだ。
(な、なぜ、これほど心臓が鼓動するのだ。ただ、指が触れただけなのに)
ラルフの反応にベルナデッタが気づくこともなく、ぎくしゃくと植物たちの世話を協力して始めたとき。
植物園の入り口が荒々しく開けられた、マティアスが転がり込んだ。
どうしたのかと尋ねる前に、彼は息も絶え絶えに叫ぶ。
「大変だ、ラルフ! 皇帝陛下が……皇帝陛下が倒れてしまった! 至急、馬車が宮殿に向かっているところだ!」
この件もラルフによって周知され、ベルナデッタは宮殿を歩くだけでも称賛される日々を送っていた。
そのような二人は今宮殿の敷地を歩いており、彼らの先にはドーム状の大きな建物があった。
全面ガラス張りで日光がよく注がれる構造だ。
ラルフが特別な鍵で魔法の結界を解除し、一緒に中に入る。
緑と花の香りが入り交じった深みのある空気がベルナデッタを迎えた。
深呼吸すると身体の隅々まで癒されるようだった。
ラルフが誇らしげな顔で周囲を――多種多様な植物が、力強く繁茂する空間を見渡す。
「この宮殿植物園が枯れ果てていたなんて、傍から見たら信じられないだろうな」
「そうですね。貴重な植物が多かったので元通りにできて私もよかったです」
「元通りどころではない。君が復活させてくれた帝国の今が……この宮殿植物園から伝わる」
話しながら、ベルナデッタの脳裏にこの三週間が思い出された。
彼女とジュリエットが開発した薬は、土壌の汚染に対して非常に強力な効果を発揮した。
ラルフとマティアスが大変に喜んだ光景は記憶に新しい。
効果が確認された後、まず行ったのは粒の形に製剤することだった。
マティアスの鳥ゴーレムを大量に使い、ベルナデッタが魔力を込めた植物の種とともに各地に撒く。
解毒薬と種の魔力は土壌で互いに反応し、植物を収穫可能になるまで一気に育てた。
結果、わずか三週間で国民生活が落ち着くほどまで帝国の植物事情は改善されたのだ。
今や、カッセル侯爵領だけでなく帝国内の主要な植物はほとんどが復活した。
金穂麦以外の穀物、豆類、野菜類、果物、糖料作物、香辛野菜に薬草……いずれも収穫されるや否や国中に運搬され、この国の生活は急速に平時に戻りつつある。
国民たちの喜びも凄まじく、連日感謝の手紙が宮殿に届いていた。
ラルフは近くに生えた煎じると滋養作用のある植物――グレイス草の葉を触れながら呟く。
「煤羅鳥を使った毒の散布方法から考えつくとは、君は機転が利く女性だ」
「カッセル侯爵領のように、地面を歩いて撒くよりずっと効率がいいですからね」
解毒薬と種の散布については、ベルナデッタが煤羅鳥の一件を参考にしたのだった。
マティアスが作った鳥ゴーレムは高性能なこともあり、予定よりずっと早く効果が出た。
テーブルの上に園芸道具を並べながら、ベルナデッタはラルフに問いかける。
「殿下、本当に私の作業を手伝ってくださるのですか? お忙しいのでは……」
「いや、幸いなことに時間はある。君が植物事情を改善してくれたからな」
帝国の植物が復活するにつれ、ラルフはベルナデッタの仕事を手伝ってくれるようになった。
今日もそうだ。
(王国にいたときは誰も手伝おうとしてくれなかったのに……)
ラルフの優しさが伝わり、彼女の心は日だまりのように温かくなる。
「……ところで、そろそろこの花を引き剥がしてくれるか?」
「はい、少々お待ちください」
緩衝地帯で芽吹かせた<ニブルフラワー>もここに置かせてもらっており、ラルフが訪れては彼の頭を甘噛みした。
ラルフが風魔法で花粉を除去した後、ベルナデッタは緊張しながら気になっていたことを尋ねる。
「あの……ヴィクターについてはどうですか?」
「捜査は順調だ。やはり、当初の想定通り黒幕がいた。だが、ヴィクターはその顔も名前も知らなかった。黒幕との間に多数の人間を介することで、捜査の手から逃れるつもりだ。引き続き着実に捜査を進め、必ず黒幕を捕らえるから安心してほしい」
「私にもできることがあったら仰ってください。なんでもお手伝いします」
「ああ、ありがとう。そのような機会はないと願いたいがな」
捜査についてうまくいくよう祈る。
同時に、やはりあの男についてもラルフに話しておきたくなった。
「その黒幕についてですが、私は……っ」
ベルナデッタは最後まで言えなかった。
ラルフが細く長い指で、彼女の唇を優雅に押さえたからだ。
緊張で急激に顔が火照るのを感じる中、ラルフは何も気づかぬ様子で話を続ける。
「君が想像している人物と、私が考える黒幕はおそらく同じだ。だが、まだ確固たる証拠がない。だから、今は黙っておくことを勧める」
「……んぁい」
何も話せぬベルナデッタがくぐもった声を上げたところで、ラルフはようやく自分の行動に気づいた。
「し、失礼! 申し訳ない、忘れてくれ!」
「い、いえ、どうかお気になさらず! まったく嫌ではありませんでしたから……えっと、今の言葉に別に深い意味はなくてですね!」
しばらく二人であたふたと慌てていたが、空気を切り替えるようにラルフがこほんと軽く咳払いする。
「さて、別件でベルナデッタに話しておきたいことがある。今、皇帝陛下――まぁ、私の父が保養地から宮殿に向かっているところだ」
「お元気になられたんですか!?」
「君が植物事情を改善してくれたおかげで、精神的な心労から回復できたんだ。栄養が取れるようになったことも大きい。だからありがとう、ベルナデッタ。君は帝国に欠かせない人間だ」
「こちらこそありがとうございます……お元気になられてよかったです」
皇帝陛下の容態はベルナデッタもずっと気になっており、回復と聞いて安心できた。
「父は今日の午後には到着するだろう。ベルナデッタを迎えた経緯や君の功績も手紙で伝えてあるが、到着次第正式に紹介したい。父に紹介次第、帝国民にも君の存在がお披露目となるだろう。心の準備をしておいてもらえるとありがたい」
「わかりました」
淡々と答えるベルナデッタだが、胸の奥では一つの小さな疑問が浮かぶ。
(紹介って……宮廷植物医、としてよね? もしかして……)
慌てて頭を振って打ち消す。
疑問に淡い願望が混じっていたことを恥ずかしく思ってしまう。
ベルナデッタは気を取り直して植物の剪定を始めようと、大きな枝鋏に手を伸ばす。
「では、殿下そろそろお仕事を……」
「重いから私が取ろう」
二人の指が触れ合う。
「「あっ……」」
同時に手を引っ込め、無言の時間が訪れた。
たちまち、ベルナデッタは顔が熱くなるのを感じ、何も話せなくなってしまった。
(な、なんで、こんなにドキドキするの。ただ、指が当たっただけなのに)
彼女は気づかなかったが、それはラルフも同じだ。
(な、なぜ、これほど心臓が鼓動するのだ。ただ、指が触れただけなのに)
ラルフの反応にベルナデッタが気づくこともなく、ぎくしゃくと植物たちの世話を協力して始めたとき。
植物園の入り口が荒々しく開けられた、マティアスが転がり込んだ。
どうしたのかと尋ねる前に、彼は息も絶え絶えに叫ぶ。
「大変だ、ラルフ! 皇帝陛下が……皇帝陛下が倒れてしまった! 至急、馬車が宮殿に向かっているところだ!」