母国を追われた草いじり令嬢は、敵国で『宮廷植物医』として新生活を満喫しています~元婚約者様と義妹、お元気ですか? 貴重な植物が全て枯れ、さらに私が渡した大事な園芸書を燃やした?じゃあ、もう無理ですね~
第25話:宮廷植物医、皇帝陛下の病気の治療に活路を生み出す
皇帝の帰還と体調不良の報せは瞬く間に伝わり、ようやく平穏さを取り戻した宮殿は騒乱に包まれた。
ベルナデッタはラルフとともに皇帝の部屋に急行した。
駆けつけた彼女の姿を見て、何とかしてくれる、という希望が室内の空気を和らげた。
たくさんの医術師や使用人が行き交う中、皇帝は中央のベッドに横たわる。
短くまとめられた銀髪に鋭い赤目からは、くすんでいても落ち着いた輝きを放たれていた。
本来なら威厳と力強さに溢れた人物だと容易にわかるが、今の彼の状態は見ているだけで心苦しくなる。
(黒色の斑点模様が……身体中に……)
顔や首、手など全身に不気味な黒い斑点が浮かび、皇帝の呼吸は浅い。
――命が蝕まれている。
その重い事実は、室内にいる全ての人間の首をゆっくりと締め上げる。
皇帝は目だけをゆっくりと動かし、ベルナデッタを視界に収めた。
「其方が宮廷植物医のベルナデッタ嬢か……」
「はい、左様でございます」
「ラルフの報告通りの……利発そうな令嬢だな。朕はこの国の皇帝……オルディウスだ。初めての挨拶がこのような形ですまんな……」
「いえ、私のことなどお気になさらないでください」
荒い息で吐き出された言葉に、ベルナデッタは頭を下げる。
ラルフから偉丈夫の人物と聞いていたが、弱々しく震える声に胸が苦しくなった。
苦しいだろうに、オルディウスは笑顔で言葉を続ける。
「保養地から帰還する途中、植物事情の変貌を目の当たりにした……。保養地には少なからず植物が残っていたが……枯れ果てた大地に緑が溢れる光景には胸が打たれた。其方に会うのが楽しみだったのだが……運命とは残酷よ。……ラルフはいるか?」
「はっ、ここにおります」
枕元に近寄ったラルフの肩を、オルディウスは震える手で掴む。
「今日から……お前が皇帝だ。朕の後は頼んだぞ……」
「何を仰るか。父上にはまだまだ頑張っていただかないと。道半ばで死すようなお方ではないはずだ」
「朕もそう思いたいが身体がもう……うっ!」
オルディウスの顔が苦痛に歪み、ラルフが即座に医術師たちを呼ぶ。
しばし慌ただしく治療が施され、やがて静かな寝息が立ち始めた。
一時の平穏が訪れはしたが、重苦しい空気は変わらずだ。
「父上の病気は……邪斑病だ」
ラルフの呟きに、ベルナデッタ含めみなの顔が硬くなる。
(やっぱり、あの病気だった)
身体に黒い斑点が現れ、魔力と体力を少しずつ消耗させていく極めて珍しい希病だ。
一般的な病であれば身体の自然治癒力が働くが、邪斑病は何かしらの仕組みでそれを無効化する。
症例数が少ないこともあり原因は不明。
発症した者は全てが命を落とす危険な病だった。
「あの男がこんな病気になるなんてね……信じられないよ。あんなに身体の丈夫だった男が」
ジュリエットは苛立ちを吐き出す。
ラルフだけは心労を押し殺した声音で、オルディウスの背景を淡々と説明した。
「なぜ父上が邪斑病を発症したのかはわからない。保養地で過ごしたときに何かきっかけがあったのかもしれない。現在、迅速に調査中だ」
「殿下、邪斑病だとしたら……」
ベルナデッタが背筋が冷たくなる感覚を覚えながら言いかけると、ラルフは深刻な顔で答えた。
「ああ、君も知っての通り、治療には星癒花が絶対に必要なのだ。二百年前、世界中から姿を消したあの星癒花が……」
星癒花とはその名の通り、星の形の花を咲かす貴重な植物だ。
花弁から抽出される成分が邪斑病に唯一効果をもたらすと報告があった。
元々個体数が少ないだけでなく、やんわり光る青い茎と黄色の花びらが美しいとされ、観賞用としても需要が高かった。
光を放つ見つけやすさも相まって、僅か数十年で乱獲され尽くしたのだ。
ぽつぽつと生き残った個体も見つけ次第刈り取られ、今や完全に絶滅してしまった。
ジュリエットが拳を震わせながらさらなる絶望的な状況を告げる。
「星癒花は人間の手じゃ育てられない。種子が貯蔵されたり、保管されていることもないだろうよ。少なくとも帝国の宮殿にはないね。アトラ王国はどうだい?」
「残念ながらありません。仰るとおり、星癒花の種子を保存している国は存在しないと思う増す」
ラルフは力なく椅子に座り、ジュリエットもマティアスも悔しそうに顔を背けた。
ベルナデッタの頭に今まで読み、学んだ膨大な文献や資料の知識が広がる。
その全てをもう一度反芻したが、今の時代に目撃されたという報告はなかった。
(星癒花は……絶滅植物。これは変わらない事実だ)
種子が無ければ、絶滅した植物は蘇らない。
変えようがない厳しい現実に室内が重苦しくなる中、マティアスが一縷の望みを懸けて言う。
「僕が鳥ゴーレムを大量に放って探索しよう。もしかしたら、帝国のどこかに生き残っているかもしれない。それでも可能性は非常に低いけど」
「ああ、よろしく頼む。父上の状態を考えると僅かな可能性に懸けるしかない」
「だけど時間がないよ。何週間も待てる状況ではないさ」
エーデル帝国は広く、オルディウスの状態は悪い。
稼働時間などを考えると鳥ゴーレムは改良の必要もあった。
……間に合うかどうかわからない。
そんな重苦しい静寂を切り裂いたのは、ベルナデッタの一言だ。
「お待ちください」
注目が集まった彼女は深呼吸し、打開策を告げる。
「星癒草がなくても邪斑病の治療薬は作れます。他の植物を特殊な条件下で育て、星癒草と同じ効果を生み出すのです」
ベルナデッタはラルフとともに皇帝の部屋に急行した。
駆けつけた彼女の姿を見て、何とかしてくれる、という希望が室内の空気を和らげた。
たくさんの医術師や使用人が行き交う中、皇帝は中央のベッドに横たわる。
短くまとめられた銀髪に鋭い赤目からは、くすんでいても落ち着いた輝きを放たれていた。
本来なら威厳と力強さに溢れた人物だと容易にわかるが、今の彼の状態は見ているだけで心苦しくなる。
(黒色の斑点模様が……身体中に……)
顔や首、手など全身に不気味な黒い斑点が浮かび、皇帝の呼吸は浅い。
――命が蝕まれている。
その重い事実は、室内にいる全ての人間の首をゆっくりと締め上げる。
皇帝は目だけをゆっくりと動かし、ベルナデッタを視界に収めた。
「其方が宮廷植物医のベルナデッタ嬢か……」
「はい、左様でございます」
「ラルフの報告通りの……利発そうな令嬢だな。朕はこの国の皇帝……オルディウスだ。初めての挨拶がこのような形ですまんな……」
「いえ、私のことなどお気になさらないでください」
荒い息で吐き出された言葉に、ベルナデッタは頭を下げる。
ラルフから偉丈夫の人物と聞いていたが、弱々しく震える声に胸が苦しくなった。
苦しいだろうに、オルディウスは笑顔で言葉を続ける。
「保養地から帰還する途中、植物事情の変貌を目の当たりにした……。保養地には少なからず植物が残っていたが……枯れ果てた大地に緑が溢れる光景には胸が打たれた。其方に会うのが楽しみだったのだが……運命とは残酷よ。……ラルフはいるか?」
「はっ、ここにおります」
枕元に近寄ったラルフの肩を、オルディウスは震える手で掴む。
「今日から……お前が皇帝だ。朕の後は頼んだぞ……」
「何を仰るか。父上にはまだまだ頑張っていただかないと。道半ばで死すようなお方ではないはずだ」
「朕もそう思いたいが身体がもう……うっ!」
オルディウスの顔が苦痛に歪み、ラルフが即座に医術師たちを呼ぶ。
しばし慌ただしく治療が施され、やがて静かな寝息が立ち始めた。
一時の平穏が訪れはしたが、重苦しい空気は変わらずだ。
「父上の病気は……邪斑病だ」
ラルフの呟きに、ベルナデッタ含めみなの顔が硬くなる。
(やっぱり、あの病気だった)
身体に黒い斑点が現れ、魔力と体力を少しずつ消耗させていく極めて珍しい希病だ。
一般的な病であれば身体の自然治癒力が働くが、邪斑病は何かしらの仕組みでそれを無効化する。
症例数が少ないこともあり原因は不明。
発症した者は全てが命を落とす危険な病だった。
「あの男がこんな病気になるなんてね……信じられないよ。あんなに身体の丈夫だった男が」
ジュリエットは苛立ちを吐き出す。
ラルフだけは心労を押し殺した声音で、オルディウスの背景を淡々と説明した。
「なぜ父上が邪斑病を発症したのかはわからない。保養地で過ごしたときに何かきっかけがあったのかもしれない。現在、迅速に調査中だ」
「殿下、邪斑病だとしたら……」
ベルナデッタが背筋が冷たくなる感覚を覚えながら言いかけると、ラルフは深刻な顔で答えた。
「ああ、君も知っての通り、治療には星癒花が絶対に必要なのだ。二百年前、世界中から姿を消したあの星癒花が……」
星癒花とはその名の通り、星の形の花を咲かす貴重な植物だ。
花弁から抽出される成分が邪斑病に唯一効果をもたらすと報告があった。
元々個体数が少ないだけでなく、やんわり光る青い茎と黄色の花びらが美しいとされ、観賞用としても需要が高かった。
光を放つ見つけやすさも相まって、僅か数十年で乱獲され尽くしたのだ。
ぽつぽつと生き残った個体も見つけ次第刈り取られ、今や完全に絶滅してしまった。
ジュリエットが拳を震わせながらさらなる絶望的な状況を告げる。
「星癒花は人間の手じゃ育てられない。種子が貯蔵されたり、保管されていることもないだろうよ。少なくとも帝国の宮殿にはないね。アトラ王国はどうだい?」
「残念ながらありません。仰るとおり、星癒花の種子を保存している国は存在しないと思う増す」
ラルフは力なく椅子に座り、ジュリエットもマティアスも悔しそうに顔を背けた。
ベルナデッタの頭に今まで読み、学んだ膨大な文献や資料の知識が広がる。
その全てをもう一度反芻したが、今の時代に目撃されたという報告はなかった。
(星癒花は……絶滅植物。これは変わらない事実だ)
種子が無ければ、絶滅した植物は蘇らない。
変えようがない厳しい現実に室内が重苦しくなる中、マティアスが一縷の望みを懸けて言う。
「僕が鳥ゴーレムを大量に放って探索しよう。もしかしたら、帝国のどこかに生き残っているかもしれない。それでも可能性は非常に低いけど」
「ああ、よろしく頼む。父上の状態を考えると僅かな可能性に懸けるしかない」
「だけど時間がないよ。何週間も待てる状況ではないさ」
エーデル帝国は広く、オルディウスの状態は悪い。
稼働時間などを考えると鳥ゴーレムは改良の必要もあった。
……間に合うかどうかわからない。
そんな重苦しい静寂を切り裂いたのは、ベルナデッタの一言だ。
「お待ちください」
注目が集まった彼女は深呼吸し、打開策を告げる。
「星癒草がなくても邪斑病の治療薬は作れます。他の植物を特殊な条件下で育て、星癒草と同じ効果を生み出すのです」