母国を追われた草いじり令嬢は、敵国で『宮廷植物医』として新生活を満喫しています~元婚約者様と義妹、お元気ですか? 貴重な植物が全て枯れ、さらに私が渡した大事な園芸書を燃やした?じゃあ、もう無理ですね~

第27話:宮廷植物医、皇太子にお姫様抱っこされる

 ベルナデッタはしばしぼんやりとしていたが、ラルフの体温を感じるにつれ彼女の心臓は強く鼓動し始める。
 たちまち、意識は鮮明に戻った。

「で、殿下、申し訳ありません……! どうぞお離しください!」
「そうか? じゃあ、離すぞ」

 そっと腕を解かれるが、ベルナデッタは数歩歩くだけでふらついてしまった。
 脚に力が入らず平衡感覚がおぼつかない。
 壁に手をついてしまう彼女に、ラルフが真剣な表情で状態を確認する。

「魔力の使いすぎだろう。医術師を呼ぶか?」
「いえ、それには及びません。皇帝陛下の容態を見ていただいた方がよろしいので……おそらく、少し休めばすぐ元通りに……っ!」

 突然、ベルナデッタの身体が浮き上がった。

(えっ、これってもしかして……!?)

 お姫様抱っこだ。
 マティアスとジュリエットは顔を赤らめて口元を手で押さえる。

「で、殿下、いったいなにを……!」
「宮殿の中とはいえ用心するに越したことはない。弱っているのならばなおさらだ。自室まで護衛も兼ねて運ばせてもらう」

 ラルフは宮殿植物園で指が触れ合うだけでも緊張していたのに、こういうことはすんなりとできた。
 要するに、それくらいベルナデッタが心配なのだ。
 使用人たちとすれ違うたび、彼らもまた顔を赤らめて口元を手で押さえた。
 静々と運ばれるベルナデッタは疑問に思う。

(普段より廊下が長く感じるのはなぜ……?)

 見た目は変わらないのに明らかに長さが増していた。
 頬の熱さを感じる彼女はふと気づく。

「て、転送魔法を使っていただくわけにはいかないのでしょうか……」
「……名案だ」
 
 二人はベルナデッタの自室前に飛ぶ。 
 応対に出たキャシーもまた、使用人たちと同じように顔を赤らめては口元を手で押さえていた。
 放心する彼女を横目にラルフはベルナデッタを寝かせ、丁寧に毛布をかける。

「きっと、今までの疲れが出たんだ。しばらく休みなさい。仕事のことは考えないように」
「ありがとうございます、殿下。お言葉に甘えさせていただこうと思います」

 治療薬を作ったり、植物に魔力を込める以上に疲れた気がする。
 すぐに復帰するのは難しそうだった。
 まだ顔が赤い彼女にラルフは静かに微笑む。

「……礼を言うのは私の方だ。お休み」

 入れ替わりでキャシーが寝室に来たときには、ベルナデッタは安らかな寝息を立てていた。
 ラルフに貰った銀色のコインを静かに握り締めて――
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