母国を追われた草いじり令嬢は、敵国で『宮廷植物医』として新生活を満喫しています~元婚約者様と義妹、お元気ですか? 貴重な植物が全て枯れ、さらに私が渡した大事な園芸書を燃やした?じゃあ、もう無理ですね~

第28話:宮廷植物医、回復する。そして、王国と帝国の関係改善のため植物博覧会の提案をする

 オルディウスの病気が治って、ラルフにお姫様抱っこされてから三日が過ぎた。
 ぐっすりと眠り、おいしい食事を食べる日々を送り、心身ともに全快した。
 目覚めたベルナデッタは、ベッドの上で大きく伸びをする。
 頭も身体も軽く、気持ちも爽やかだ。
 窓を開け朝の空気を感じたところで、キャシーが朝食を持ってきてくれた。
  
「ベルナ、おはよう。その調子だと体調は大丈夫みたいね」
「おはよう、キャシー。ええ、もうすっかり元気だわ」
「よかった、倒れたときは本当に心配したよ。でも、殿下にお姫……っこされたときは胸がキュンキュンしちゃって……」

 キャシーは顔を赤らめて照れる。
 三日前の出来事を思い出してしまったベルナデッタは、サラダに勢いよくフォークを挿した。

「し、知らない間に疲れが溜まっていたのね。もう倒れないように気をつけてなくちゃ。それにしても今日もご飯がおいしいわ」

 植物に関する仕事に疲れを感じたことはなかったが、他国での暮らしということもあってか疲労は蓄積していたようだ。

 朝食を食べ終わったベルナデッタは、休暇のお礼を言うためラルフの執務室を訪ねた。
 ノックしようと手を上げるのだが、思い出すことがあり止まってしまった。
 お姫様抱っこの件だ。
 じわじわと恥ずかしさや緊張が胸にせりあがる。
 ついでに言うと、ここに来るまでの間に使用人たちともすれ違ったが、みなにもキャシーと同じような反応をされた。

(……落ち着いて、私。普段通りにすればいいだけだから)

 深呼吸してノックするも、いつもとリズムが変わってしまった。
 ラルフの声を聞いてさらに幾ばくか緊張し、中に入る。

「元気になったようだな」
「お、おかげさまで元気になりました。お休みをいただきありがとうございました」
「君が回復したと聞いたらみなも喜ぶだろう。もちろん、私もだ」

 ラルフは淡々と話すばかりなのだが、どこか様子の違うベルナデッタを見て疑問に思う。
 まだ疲れが取れていないのかと心配した瞬間、ようやく三日前の行動を思い出した。
 第三者目線での光景が蘇る。

「あ、あのときは大変失礼したっ。最初から転送魔法を使っていれば……!」
「い、いえ、気にしないでくださいっ。咄嗟のことだったと思いますので……!」

 しばし甘酸っぱい空気が流れた後、ラルフは引き出しを開けた。

「感謝の証として君に渡したい物がある」

 差し出された"それ"を見て、ベルナデッタは緊張が消え代わりに気持ちが高揚する。

「これは……剪定鋏ですか!? まさか、ラルフ様が……!」
「ああ、私が製作した。切れ味が落ちないような魔法をかけてある」
「ありがとうございます!」

 頑強な金属製でありつつも非常に軽くて持ちやすい。
 刃の合わせは隙間がなく、研ぎも反りも一級品だと見ただけでわかる。

(……なんだかあったかいな)
 
 金属でできた剪定鋏は冷たいはずなのに、どこか温かさを感じる。
 それが気のせいではないことが、ベルナデッタはよくわかっていた。

「持っているだけで殿下の優しいお気持ちが伝わるようです……」
「……そう言ってくれて私も嬉しい」

 二人は静かに見つめ合う。
 一瞬だけ時が止まったような、そんな気がした。
 ラルフが軽く咳払いして空気が変わる。

「話は変わるが、これから父上のところに同行してくれないか? 正式に礼を伝えたいのと……アトラ王国との関係についても共有したいそうだ」
「……わかりました。ぜひお願いします」
 
 ベルナデッタは気持ちを新たに答える。
 出身国の名前を聞くと、それだけで気が引き締まった。
 剪定鋏は呼ぶとどこからかすぐ来たキャシーに預け、二人はオルディウスの執務室に向かう。


 □□□


 執務室にはすでにマティアスもいて、訪れた二人を笑顔で迎える。
 彼はお姫様抱っこの目撃者ではあるが、仕事の場でもあるし特に言及することはなかった。 全員揃うと、オルディウスはまずベルナデッタに礼を述べた。

「もう何度言ったかわからんが、其方には深く感謝の言葉を伝えたい。朕の命を救ってくれてありがとう」
「陛下もお元気そうで何よりです」

 オルディウスは血色がよく表情も明るい。
 邪斑病に侵されていたときとはまるで別人で、本来の力強さと威厳を取り戻していた。
 彼は真剣な顔つきに戻ると、ベルナデッタを正面から見る。

「其方には様々な点で世話になっている。我が国を襲った植物の奇病――これは毒によるものだったのだな。其方がいなければ今も植物は枯れ果てていただろう。調査はどうなっている?」

 視線を向けられたラルフが答える。

「だいぶ上層部に近づいてきております。トップはおそらくあの公爵貴族かと……現在、決定的な証拠を集めているところでございます」
「……承知した。昔は志も高くて立派な人物ではあったが、お前が言うのなら間違いはないな。引き続き調査を頼む。さて、本題に入ろう。ラルフ、説明を頼めるか?」
「はい」

 毒散布の黒幕についてみなの脳裏に同じ人物が脳裏に浮かんだ後、ラルフは机の上に大きな世界地図を広げる。
 アトラ王国とその隣国が淡く光った。

「先日、外交筋からアトラ王国はノルドハイム王国と同盟を結ぶ算段だと報告が入った。
両国が同盟関係になると、国際情勢は一層緊張するだろう。帝国内でも戦争を危惧する者が増えると考えられる」
「永きに渡るアトラ王国との関係は朕の代で解決したいのだがな……何かきっかけがあれば……」

 オルディウスの呟きに、室内のみなは思案する。
 ヴァルステイン帝国は世界的に見ても巨大な国で、単独で攻め落とすことは難しい。
 だが、力のある国同士が結託すれば話は変わるのだった。

(きっかけ……か)

 ベルナデッタは国外追放されてしまったが、アトラ王国自体はとても好きだ。
 今でも母国だと思っている。
 植物は豊富な種類が育ち、人々は温かかった。
 ギルアンやセリーヌが例外なのだ。
 大切な母国と大切な第二の故郷が不仲なのは非常に心苦しい。
 どうにかして仲良くなれるきっかけはないか、と考えた彼女はふと閃いた。

 ――自分にできることはこれしかない。でも、"彼ら"なら二つの国を結んでくれるはず……
 
 緊張を胸に彼女は提案する。

「エーデル帝国とアトラ王国とで、植物博覧会を開くのはどうでしょうか?」
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