母国を追われた草いじり令嬢は、敵国で『宮廷植物医』として新生活を満喫しています~元婚約者様と義妹、お元気ですか? 貴重な植物が全て枯れ、さらに私が渡した大事な園芸書を燃やした?じゃあ、もう無理ですね~

第29話:宮廷植物医、植物博覧会の開催を了承される

「ほぅ、植物博覧会とは……詳しい説明を願えるかな?」

 オルディウスに促され、ベルナデッタは自らの考えを伝える。

「不当に破棄されてしまいましたが、私は元々アトラ王国の第二王子と婚約しておりました」

 彼女が帝国に来た経緯はオルディウスも知っており、彼は険しい顔で頷く。

「その関係もあって、私は国王夫妻など王族の方々と接する機会が多くありました。彼らは平和を願い、エーデル帝国との争いは避けたいといつも話していました。ですので、和平の提案は前向きに受け入れてくれるはずです。そのきっかけとして、植物博覧会を開催するのです」

 みなが静かに聞く中、ベルナデッタは力強く告げた。

「植物には人と人を繋ぐ力がある……私は常日頃からそう思っています。実際に、私はこの帝国でとても大切な人たちと関わることができました。植物には国と国の軋轢も乗り越える力がある……私はそう信じて止まないのです」

 ラルフ、マティアス、ジュリエット、キャシー……彼女の頭には、植物が繋げてくれたたくさんの人々が思い浮かぶ。

(植物たちのおかげで、私は今ここにいる)

 もし自分の好きな対象がまったく違ったとしたら、どういう人生を送っていたかわからない。
 少なくとも、彼女において植物は人生を変えるほどの力を持つ存在だった。
 自らの考えを伝えたベルナデッタは、拍動する心臓を静かに押さえる。
 他国の皇帝に何か意見するのはやはり緊張するものだった。 
 彼女の不安を打ち消すように、真っ先にラルフが一歩前に踏み出した。

「父上、私もベルナデッタの提案に賛同したい。植物のもたらす力は我々人間が思う以上に強く尊いことを実感している。エーデル帝国とアトラ王国……きっと両国を結びつけてくれるはずだ」

(殿下……)

 彼の横顔は陽光に煌めき、やけに眩しく見えた。

「皇帝陛下、僭越至極ではございますが、私もベルナ嬢の提案を支持したく思います。彼女の話す通り、植物の力は類い希なものです」

(マティアス様も……)

 ベルナデッタの心臓は少しずつ拍動を弱める。
 元々、不安や心配などする必要はなかったらしい。
 オルディウスはにこりとした笑顔で頷いた。

「もちろん、朕も賛成だ。植物の力の強さは誰よりも朕が体験しておる。なんと言っても、命を救われたのだからな。取り組みとしても非常に平和的で優位意義だ。素晴らしい提案をありがとう、ベルナデッタ嬢」
「ありがとうございます、陛下! このベルナデッタ、精一杯頑張らせていただきます!」

 エーデル帝国内での植物博覧会の開催は正式に決まり、あとはアトラ王国に提案するのみとなった。

「書簡の送付は僕に任せてくれ。確実に届くよう手配する」

 マティアスが力強く宣言し、早急に準備が始まる。
 開催場所は国境沿いの広大な草原地帯が候補に挙げられ、ベルナデッタはラルフの協力の下、書簡を製作しアトラ王国に送った。
 エーデル帝国が主催国として植物の手配や開催の準備を行い、アトラ王国は参加国として招致する。

(どうかうまくいきますように……)

 大事な二国の関係改善を願って――

 ◆◆◆

 アトラ王国では、連日ベルナデッタの捜索が進められていた。
 だが、めぼしい結果は出ておらず、国王の執務室に漂う空気は重い。
 パスカルの報告を聞いたフレデリックとポリーンは頭を抱える。

「ベルナデッタ嬢はいったいどこに消えてしまったのだ……」
「目撃情報が全然ありませんわね……」

 最悪の場合、"死"の可能性さえあった。
 不幸なことに問題は他にも存在する。
 ノルドハイム王国との関係も改善の兆しは見えておらず、外交関係を継続するので精一杯だった。
 室内の重苦しい空気を切り替えるように、フレデリックは窓を開けた。
 遠目には灰色の塔――拘禁塔が見える。

「ギルアンとセリーヌ嬢はどうしている?」
「おとなしいものです。暴れるかと警戒していたのですが、実際はずいぶんと静かに過ごしています。きっと、自分たちの行いに絶望しているのでしょう」

 パスカルは淡々と答える。
 極めて精巧なこともあり、黒鳥が生みだした分身だとはまだ知られていない。
 ギルアンとセリーヌの移送について話がまとまったところで、扉が慌ただしくノックされた。
 入室した執事はひどく慌てた様子で一通の文書を差し出す。

「陛下に書簡が……エ、エーデル帝国から書簡が届きました!」

 室内の全員が驚きの表情を浮かべ、フレデリックは微かに震える手で読み始めた。

 ――今の状況で宣戦布告でもされたら大変なことになる。

 全員が同じ焦燥感に駆られる中、彼の顔にはまず歓喜の色が浮かんだ。
 
「ベルナデッタ嬢の行方がわかったぞ……彼女はエーデル帝国にいるらしい! 国外追放され奴隷商人に攫われたところ、彼の国の皇太子――"冷眼の皇太子"に助けられたそうだ!」

 書簡の内容を聞いたパスカルとポリーンは安堵し喜ぶ。

「よかった……彼女は生きていたんですね」
「死んでしまっていたらどうしようかと思っていたわ。それにしても、あの国にいるなんて運命って不思議ね……」

 二人の言葉にフレデリックは頷き、さらに書簡の内容を伝える。

「長らく連絡が取れずに申し訳なかったとも書かれている。謝罪すべきは私たちの方なのに……」

 ポリーンもパスカルも力なく俯く。
 身内の愚かな行いがただただ恥ずかしく、謝罪したい気持ちでいっぱいだった。
 フレデリックの話は続く。
 ベルナデッタにとってエーデル帝国は第二の故郷と聞き、三人は嬉しいような寂しいような複雑な心境になった。

「ありがたいことに、彼の国は争いを望んでいないらしい。そこで、我が王国との間で友好のきっかけとなる植物博覧会を開催しないか、という提案だ。ベルナデッタ嬢が考えてくれたようだ……彼女は私たちよりずっと人間として成熟しているな」

 不当に婚約破棄された上に国外追放となったのだから、ひどく恨まれていてもおかしくはない。
 それでも国同士の平和を願うベルナデッタの懐の深さが感じられた。
 フレデリックたちの結論は一つだ。
 
「植物博覧会……ぜひ参加させてもらおう」

 敵対関係にある国との外交行事では、不意打ちの可能性を考えなければならない。
 だが、今回に限って警戒する必要はなかった。

 ――ベルナデッタがいるのならばきっとうまくいく。

 それくらい彼女に対する信頼は厚かったのだから。


 ◆◆◆


 アトラ王国からの書簡は早急にエーデル帝国に届き、ベルナデッタもラルフもオルディウスも……みんなが前向きな返事に喜んだ。
 会場は両国の国境上に位置する広大な草原が正式に選ばれ、ベルナデッタ主導の準備が進められる。
 両国において綿密な準備が行われ、とうとう植物博覧会の当日を迎えるのだった。
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