母国を追われた草いじり令嬢は、敵国で『宮廷植物医』として新生活を満喫しています~元婚約者様と義妹、お元気ですか? 貴重な植物が全て枯れ、さらに私が渡した大事な園芸書を燃やした?じゃあ、もう無理ですね~
第33話:二体の堕天使
「ははっ、ここから出す? お前みたいな鳥に何ができる」
「ふざけるのもいい加減にしなさい。羽根を毟ってしまうわよ」
〔私はエーデル帝国の人間だ。声を出すな。外の衛兵に聞かれたらどうする〕
言わずと知れた敵国の名前が出てきて、ギルアンもセリーヌも笑いを止めた。
重い水が身体に纏わりついているような、はたまた火で炙られているような息苦しさを覚える。
「お前は本当に……エーデル帝国の者なのか?」
〔左様。……ふむ、証拠を示した方がよさそうだな。その腕輪を差し出せ〕
ギルアンとセリーヌは半信半疑ながら言われた通りにする。
黒鳥が軽くつつくと腕輪はひび割れ、砂の如く朽ち果ててしまった。
「「な……んでっ。魔法を無効化するはずなのに……」」
〔エーデル帝国に伝わる特別な術式の魔法を使ったまでだ。そう……闇魔法を〕
「「っ!?」」
衝撃を受けた二人は口を噤む。
――闇魔法。
非常に強力故危険な存在として知られ、この世から封印されて久しいはずだ。
その威力を実際に目の当たりにして恐怖を覚える。
〔さて、御託は終わりだ。まず、声に出しての会話は止めろ。私の目を見ながら念じれば、誰にも聞かれぬ念話ができる〕
黒鳥の話は全て真実だとわかり、ギルアンとセリーヌは真剣な面持ちで頷く。
魔法封じの腕輪を破壊するなど相当な実力者であるため、下手したら命の危険まで感じた。
〔現在、ベルナデッタ・フォーセットはエーデル帝国にいる〕
〔……なに? あの敵国にか?〕
〔お義姉様がどうして……?〕
二人は強く疑問に思う。
同盟国ならいざ知らず、なぜわざわざ敵国に出向いたのか理解できなかった。
〔"冷眼の皇太子"と称されるラルフ・エーデルに力を認められ、庇護下に置かれたのだ。
今は宮殿で優雅に暮らしている〕
黒鳥の報告は、途方もない衝撃を持って受け止められた。
詳しい背景は不明だが、ベルナデッタは何かしらの経緯でラルフと出会ったとも説明は続く。
〔……帝国の諸問題を解決し、"冷眼の皇太子"や宮殿の上層部からの評価も厚い。新天地で花開いたようだな〕
〔僕たちがこんな目に遭っているのに、あいつは優雅に暮らしているだと!?〕
〔お義姉様ばかりずるいですわ! 自分だけ良い思いをして!〕
二人は声もなく怒る。
全てはベルナデッタの努力の賜物なのだが、癪に障るので認めようともしなかったのだ。
黒鳥は淡々と帝国の内情を話す。
〔現在、エーデル帝国はアトラ王国との関係を改善しようとしている。その足がかりとして、植物博覧会を開催する予定がある。互いに貴重な植物を展示して、友好の架け橋にするつもりだ。……それを破壊しろ〕
〔ちょっと待て、さすがにそれはまずいだろ。俺たちをなんだと思ってるんだ〕
〔これ以上罪を重ねろと言うの?〕
ギルアンとセリーヌは断る。
話を聞く限り、それは正式な外交の催事だとわかった。
妨害すれば一段と重い罪に問われるのは明白だ。
誘いをかけてくるのが帝国の者となればさらに怪しさを増す。
〔良い結果を出せばそれなりの褒美を出す。帝国での住まいも提供するし、安寧の日々を約束しよう〕
黒鳥の言葉に、ギルアンもセリーヌも胸を衝かれた。
――安寧の日々
今、一番欲するものだ。
二人の心の機敏を察する黒鳥は、願望を刺激するようにゆっくりと話す。
〔この場に留まったところで、お前たちの未来はどうなる? 監獄に移送され、罪を償う日々を送るだけだろう。……そんな人生でいいのか?〕
今までの所業を考えればかなり長期の収容……下手したら終身刑になる可能性は十分にあった。
((一生牢の中で過ごすのは嫌だ))
誘惑にギルアンとセリーヌの心は揺らぐ。
二人の願望が手に取るようにわかる黒鳥は、念話を使って静かに囁く。
〔エーデル帝国は、この国とは比較にならないほど豊かだ。食も娯楽も芸術も魔法もあらゆる文化が発展している。帝国にしかない貴重な資源も好きなだけ与えてやる。もちろん、上等な屋敷もだ。好きな場所を言え。望む場所に望む住まいを用意する。それに……〕
黒鳥の言葉に耳を傾けることしかできない。
先が気になってしょうがなかった。
〔お前たちをこのような不遇な目に遭わせた国王夫妻に第一王子パスカル、全ての元凶たるベルナデッタに復讐できるのだぞ?〕
二人の心は完全に黒鳥に掌握された。
降って湧いたやり返す機会に気持ちが昂る。
元より、王国に対する忠誠心などはとうになかったので決心を固めるのは早かった。
〔わかった、お前の提案に乗ってやる。エーデル帝国に連れて行け〕
〔私もギルアン様と同じよ。良い暮らしをさせなさいよね〕
〔その答えを聞けて安心した。では、さっそく帝国に向かうぞ。お前たちの分身も用意してやろう〕
黒鳥が翼を広げると、ギルアンとセリーヌの分身が現れた。
非常に精巧な魔法であり、近くで見ても違いがわからないほどだ。
続けて、黒鳥が壁をつつくと不気味な浸食が始まり、大きな穴が開いてしまった。
夜の冷たい空気が二人の顔を撫でる。
〔おい、待て。まさか、ここから飛び降りろとは言わないよな? 何メートルあると思ってるんだ〕
〔空を飛べる魔法なんて使えないわ。どうするの?〕
〔別に問題はない。自分たちの背中を見ろ。私の持つ闇魔法の力をいくらか授けてやった〕
いつの間にか、ギルアンとセリーヌの背には黒い翼が生えていた。
黒鳥の魔法だと察した二人は不敵に笑う。
今までの行動からその実力を疑うことはなく、力強く一歩踏み出した。
翼は自然に羽ばたき、漆黒の夜空をギルアンとセリーヌは優雅に舞う。
「ははは、すごいぞ。こんな魔法初めてだ」
「生まれて初めての体験ですわ」
〔帝国に来れば他にも楽しい魔法が使えるぞ、楽しみにしておけ〕
数回羽ばたくだけで、先ほどまでいた拘禁塔は遙か下となった。
黒鳥が開けた穴も塞がっており、脱走に気づく者はいないだろう。
所々明かりの灯る宮殿はずいぶんと小さく弱く見え、ギルアンとセリーヌは強い気持ちで胸が満たされた。
「じゃあな、アトラ王国。せいぜい長閑に暮らすことだ」
「私たちは帝国に行きます。お元気で」
二体の堕天使は雲間に消え、北の国境に向かって飛び続ける。
この先にさらなる破滅の運命が待っているとも知らずに――
「ふざけるのもいい加減にしなさい。羽根を毟ってしまうわよ」
〔私はエーデル帝国の人間だ。声を出すな。外の衛兵に聞かれたらどうする〕
言わずと知れた敵国の名前が出てきて、ギルアンもセリーヌも笑いを止めた。
重い水が身体に纏わりついているような、はたまた火で炙られているような息苦しさを覚える。
「お前は本当に……エーデル帝国の者なのか?」
〔左様。……ふむ、証拠を示した方がよさそうだな。その腕輪を差し出せ〕
ギルアンとセリーヌは半信半疑ながら言われた通りにする。
黒鳥が軽くつつくと腕輪はひび割れ、砂の如く朽ち果ててしまった。
「「な……んでっ。魔法を無効化するはずなのに……」」
〔エーデル帝国に伝わる特別な術式の魔法を使ったまでだ。そう……闇魔法を〕
「「っ!?」」
衝撃を受けた二人は口を噤む。
――闇魔法。
非常に強力故危険な存在として知られ、この世から封印されて久しいはずだ。
その威力を実際に目の当たりにして恐怖を覚える。
〔さて、御託は終わりだ。まず、声に出しての会話は止めろ。私の目を見ながら念じれば、誰にも聞かれぬ念話ができる〕
黒鳥の話は全て真実だとわかり、ギルアンとセリーヌは真剣な面持ちで頷く。
魔法封じの腕輪を破壊するなど相当な実力者であるため、下手したら命の危険まで感じた。
〔現在、ベルナデッタ・フォーセットはエーデル帝国にいる〕
〔……なに? あの敵国にか?〕
〔お義姉様がどうして……?〕
二人は強く疑問に思う。
同盟国ならいざ知らず、なぜわざわざ敵国に出向いたのか理解できなかった。
〔"冷眼の皇太子"と称されるラルフ・エーデルに力を認められ、庇護下に置かれたのだ。
今は宮殿で優雅に暮らしている〕
黒鳥の報告は、途方もない衝撃を持って受け止められた。
詳しい背景は不明だが、ベルナデッタは何かしらの経緯でラルフと出会ったとも説明は続く。
〔……帝国の諸問題を解決し、"冷眼の皇太子"や宮殿の上層部からの評価も厚い。新天地で花開いたようだな〕
〔僕たちがこんな目に遭っているのに、あいつは優雅に暮らしているだと!?〕
〔お義姉様ばかりずるいですわ! 自分だけ良い思いをして!〕
二人は声もなく怒る。
全てはベルナデッタの努力の賜物なのだが、癪に障るので認めようともしなかったのだ。
黒鳥は淡々と帝国の内情を話す。
〔現在、エーデル帝国はアトラ王国との関係を改善しようとしている。その足がかりとして、植物博覧会を開催する予定がある。互いに貴重な植物を展示して、友好の架け橋にするつもりだ。……それを破壊しろ〕
〔ちょっと待て、さすがにそれはまずいだろ。俺たちをなんだと思ってるんだ〕
〔これ以上罪を重ねろと言うの?〕
ギルアンとセリーヌは断る。
話を聞く限り、それは正式な外交の催事だとわかった。
妨害すれば一段と重い罪に問われるのは明白だ。
誘いをかけてくるのが帝国の者となればさらに怪しさを増す。
〔良い結果を出せばそれなりの褒美を出す。帝国での住まいも提供するし、安寧の日々を約束しよう〕
黒鳥の言葉に、ギルアンもセリーヌも胸を衝かれた。
――安寧の日々
今、一番欲するものだ。
二人の心の機敏を察する黒鳥は、願望を刺激するようにゆっくりと話す。
〔この場に留まったところで、お前たちの未来はどうなる? 監獄に移送され、罪を償う日々を送るだけだろう。……そんな人生でいいのか?〕
今までの所業を考えればかなり長期の収容……下手したら終身刑になる可能性は十分にあった。
((一生牢の中で過ごすのは嫌だ))
誘惑にギルアンとセリーヌの心は揺らぐ。
二人の願望が手に取るようにわかる黒鳥は、念話を使って静かに囁く。
〔エーデル帝国は、この国とは比較にならないほど豊かだ。食も娯楽も芸術も魔法もあらゆる文化が発展している。帝国にしかない貴重な資源も好きなだけ与えてやる。もちろん、上等な屋敷もだ。好きな場所を言え。望む場所に望む住まいを用意する。それに……〕
黒鳥の言葉に耳を傾けることしかできない。
先が気になってしょうがなかった。
〔お前たちをこのような不遇な目に遭わせた国王夫妻に第一王子パスカル、全ての元凶たるベルナデッタに復讐できるのだぞ?〕
二人の心は完全に黒鳥に掌握された。
降って湧いたやり返す機会に気持ちが昂る。
元より、王国に対する忠誠心などはとうになかったので決心を固めるのは早かった。
〔わかった、お前の提案に乗ってやる。エーデル帝国に連れて行け〕
〔私もギルアン様と同じよ。良い暮らしをさせなさいよね〕
〔その答えを聞けて安心した。では、さっそく帝国に向かうぞ。お前たちの分身も用意してやろう〕
黒鳥が翼を広げると、ギルアンとセリーヌの分身が現れた。
非常に精巧な魔法であり、近くで見ても違いがわからないほどだ。
続けて、黒鳥が壁をつつくと不気味な浸食が始まり、大きな穴が開いてしまった。
夜の冷たい空気が二人の顔を撫でる。
〔おい、待て。まさか、ここから飛び降りろとは言わないよな? 何メートルあると思ってるんだ〕
〔空を飛べる魔法なんて使えないわ。どうするの?〕
〔別に問題はない。自分たちの背中を見ろ。私の持つ闇魔法の力をいくらか授けてやった〕
いつの間にか、ギルアンとセリーヌの背には黒い翼が生えていた。
黒鳥の魔法だと察した二人は不敵に笑う。
今までの行動からその実力を疑うことはなく、力強く一歩踏み出した。
翼は自然に羽ばたき、漆黒の夜空をギルアンとセリーヌは優雅に舞う。
「ははは、すごいぞ。こんな魔法初めてだ」
「生まれて初めての体験ですわ」
〔帝国に来れば他にも楽しい魔法が使えるぞ、楽しみにしておけ〕
数回羽ばたくだけで、先ほどまでいた拘禁塔は遙か下となった。
黒鳥が開けた穴も塞がっており、脱走に気づく者はいないだろう。
所々明かりの灯る宮殿はずいぶんと小さく弱く見え、ギルアンとセリーヌは強い気持ちで胸が満たされた。
「じゃあな、アトラ王国。せいぜい長閑に暮らすことだ」
「私たちは帝国に行きます。お元気で」
二体の堕天使は雲間に消え、北の国境に向かって飛び続ける。
この先にさらなる破滅の運命が待っているとも知らずに――