母国を追われた草いじり令嬢は、敵国で『宮廷植物医』として新生活を満喫しています~元婚約者様と義妹、お元気ですか? 貴重な植物が全て枯れ、さらに私が渡した大事な園芸書を燃やした?じゃあ、もう無理ですね~

第34話:宮廷植物医、植物博覧会を開催する①

 植物博覧会当日。
 エーデル帝国とアトラ王国の国境沿いに広がる草原地帯は、普段とまったく異なる活気があった。
 いくつもの建物が建築され、さながら小さな街だ。
 帝国側の参加者は宮殿の上層部が揃っているが、ベルナデッタとラルフに敵対心を滲ませたコンラードは不参加だった。
 会場の設営にはマティアスの開発した各種ゴーレムが大いに活躍したため、平均よりずっと短い期間で準備が完了できた。
 中でも、一番目を引くのはドーム状の建物だ。
 宮殿植物園を模した物で、ベルナデッタが育てた多種多様な植物が育つ。
 そして、その前にはアトラ王国の面々が訪れていた。
 みな緊張した面持ちでいるものの武装はしていない。
 エーデル帝国に対する和平の気持ちが伺い知れた。
 まずは国を治める者同士、オルディウスとフレデリックが挨拶を交わす。

「アトラ王国の皆様、本日はよくぞお越しくださいました。皆様と会えて嬉しいですぞ」
「こちらこそ植物博覧会という素晴らしい催事を開いてくださりありがとうございます。これをきっかけに歩み寄っていきたいですな」

 二人は力強く握手を交わす。
 互いの目を見れば、ともに平和を愛する人間だということはよくわかった。
 フレデリックに視線を向けられたベルナデッタは深く一礼する。

「国王陛下、王妃様、パスカル様……お久しぶりです、ベルナデッタでございます」
「ああ、本当に久方ぶりだ。貴殿が帝国にいると聞いたときは驚いたが、とにかく生きてくれていてよかった。そして……」

 そこまで話したところで彼は深く頭を下げる。
 後ろに控えるポリーンとパスカルも同様だ。

「我が愚息ギルアンとセリーヌ嬢の行い……彼らの代わりに謝罪させてもらいたい」
「お心遣いいただきありがとうございます。ですが、私は気にしておりません。こうして温かい人々に囲まれながら、大好きな植物を育てることができておりますので」

 ベルナデッタは笑顔で答え、フレデリックたちは報われるようだった。
 続けて、現在の処遇についても説明する。

「あの二人は拘禁塔に収容した。今後、正式な判決が下され次第、監獄に移送して罪を償わせる予定だ。二人とも爵位の剝奪と終身刑は免れんだろうな」
「……そうでしたか」

 ベルナデッタはわずかに俯く。
 仮にも片方は元婚約者であり、もう片方は義妹だ。

(それなりに長い時間を過ごしてきたから、何も思わないというと嘘になるのかしら)

 だとしても、彼らの行いを王国の法律に照らし合わせると、厳しい判決を下さるを得ないだろう。
 少なからず顔が強張る彼女にフレデリックは優しく頼む。

「ベルナデッタ嬢、暗い話はここまでにして、帝国の珍しい植物たちを紹介してくれないか? 遠目にも非常に美しいものばかりで楽しみなのだ」
「……はいっ」

 気持ちを切り替えたベルナデッタは、アトラ王国の面々を植物園に連れていく。
 中に踏み込むと、植物が繁茂する独特の濃い空気がみなを出迎えた。
 彼女の一番好きな香りだ。
 
「この赤い百合はフェルリリーと言いまして、魔物を遠ざける力を持ちます。こちらの水色のツツジは幽刻ツツジです。夕方が近づくにつれ花の色が薄くなり最後には透明になってしまいます。そちらは……」

 帝国の固有種を淀みなく説明する彼女に、パスカルは感嘆とした様子で賞賛の言葉を贈る。

「ベルナデッタ嬢は場所が変わっても、植物への変わらぬ愛を持っていて素晴らしいね。できれば、アトラ王国に帰ってきてほしいくらいだ」

 何か言う前にラルフが素早く間に入り込み、パスカルに答える。

「その点については、やはり本人の意志が最も重要と私は考える。重要な問題故、きちんとした話し合いの場を設けさせてもらえればと」

 二人の牽制し合いに気づかず、ベルナデッタは嬉々として帝国の固有種を紹介する。
 植物に触れあい、どんな種類なのか説明する時間は非常に楽しいものだった。 

(ずっとこの時間が続けばいいのにな……)

 次は外に育つ植物たちの説明だ。
 素直な気持ちを抱きながら外に出たとき、ふと彼女は悪寒を感じた。
 ラルフも違和感に気づいたようで、いち早く上空を見る。
 
「あれは……なんだ?」

 会場の上空に、何か大きな鳥を思わせる生き物が飛んでいる。
 黒い翼を持つ二体の堕天使だった。
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