母国を追われた草いじり令嬢は、敵国で『宮廷植物医』として新生活を満喫しています~元婚約者様と義妹、お元気ですか? 貴重な植物が全て枯れ、さらに私が渡した大事な園芸書を燃やした?じゃあ、もう無理ですね~

第36話:末路

 植物博覧会が襲撃された日の夕刻。
 コンラードはヘスリング公爵家の地下にある例の部屋で強い怒りを感じた。

(ギルアンとセリーヌめ……失敗するとは何事だ!)

 件の事件については迅速に帝国内に周知され、コンラードも知るところとなった。
 二人の襲撃を指示したのは彼だ。
 巻き込まれないよう博覧会には敢えて参加していなかったが、迅速な対応が必要だ。
 片隅にある姿見に魔力を注ぐ。

(あのお方に指示を煽がねば……!)

 連絡を取れることはなかった。
 外が騒がしくなったかと思うと、何人もの人間が部屋に入ってきたからだ。
 暗い室内が明かりで照らされる中、コンラードは信じがたい人物を確認する。

「こんばんは、ヘスリング公爵」
「"冷眼の皇太子"……!」

 先頭にいるのはラルフだ。
 長い銀髪がやけに眩しく煌めく。
 手にはランタンのような物を持っており、中には霧の塊を思わせる黒い球が浮かぶ。
 まさかそんなはずがないと言い聞かせながら、コンラードは努めて冷静に告げる。
 
「いくら皇太子といえども、いきなり他人の屋敷に踏み入るなど無礼千万ですな。ただちに……」
「これは魔力を保存する魔導具だ。私の転送魔法で宮殿に戻り次第、マティアスがすぐに調整してくれた」

 言葉を遮られると同時、コンラードの背中を嫌な汗が伝った。
 焦る彼に構わず、ラルフは淡々と説明を続ける。

「ギルアンとセリーヌからは、禁忌であるはずの闇魔法の魔力が抽出された。状況を鑑みて、二人は何者かに授けられたと考えられる。そして貴殿も知っての通り、授けられた魔力は元の持ち主に引き寄せられる」
「な、何が言いたいのかね、"冷眼の皇太子"殿?」
「闇魔法の魔力は貴殿の屋敷に引き寄せられた、と私は言いたいのだ」

 コンラードは焦燥感に駆られ口を噤む。

(魔力の抽出は相当の技術が必要なのだぞ。闇魔法の魔力ならばなおさらの難易度だ。抽出したというのか、それもこんなに早く……)
 
 魔法の天才たるラルフにおいては、難易度など存在しないに等しかった。

「宮殿で詳しい話を聞かせてもらおうか」
「きょ、拒否する。その魔力が私のものである証拠は……」
「言い忘れていたが、帝国の植物を枯らした毒の製造施設は全て抑えてある。ヴィクターから貴殿の間に介在した全ての人間も捕縛した。物的証拠も多数確保されている状況だ」

 もう逃げられない。
 悟ったコンラードは全てを白状することを決めた。

「待ってくれたまえ、殿下! 我が輩に罪はない! "あのおか……」

 直後。
 彼の頭の中で何かが弾けた。
 一瞬で意識が刈り取られ、受け身も取れずに床に倒れる。

「どうした、ヘスリング公爵。……医術師を呼んでくれ!」

 屋敷は喧噪に包まれるも、コンラードが目覚めることはなかった。
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