母国を追われた草いじり令嬢は、敵国で『宮廷植物医』として新生活を満喫しています~元婚約者様と義妹、お元気ですか? 貴重な植物が全て枯れ、さらに私が渡した大事な園芸書を燃やした?じゃあ、もう無理ですね~

第38話:宮廷植物医、皇太子と事件の後について話す

 ベルナデッタはラルフとともに宮殿植物園を歩く。
 広い園内には誰もおらず、閑散とした空気感が厳かだった。

「世情が動こうと動くまいと、植物は変わらず育つものなのだな」
「そうですね。彼らはいつだって自分たちが生きることに精一杯です」

 話しながら思い出されるのは、植物博覧会が終わってからの日々だ。
 あの事件からすでに二週間が過ぎた。
 植物博覧会はギルアンとセリーヌの乱入により中断となってしまったが、日を改めての再開催が決定した。
 エーデル帝国とアトラ王国はともに平和を望んでいることが共有され、同盟の締結について覚え書きが交わされた。
 正式な締結は、次回の植物博覧会で行われる予定だ。

「ヘスリング公爵の件はお疲れ様でした。まさか、あの二人と繋がっていたなんて思いもしませんでした」
「ああ、君にも苦労をかけた」

 調査の結果、彼がギルアンとセリーヌを煽動したことが明らかとなった。
 危険な闇魔法の力で拘禁塔を破壊しただけでなく、力を授けて植物博覧会を襲撃させたのだ。
 毒散布事件の黒幕もヘスリング公爵――コーランドであり、公爵家からは様々な証拠が押収された。
 最終的には裁判が行われ、爵位の剥奪と終身刑が命じられた。

 ――ギルアンとセリーヌによる事件は、アトラ王国の人間がエーデル帝国の催事を台無しにした。

 両国の関係が破綻しかねない出来事ではあったものの、ラルフやオルディウスたちの冷静な対応により事なきを終えることができた。

「彼の後ろには更なる黒幕がいると睨んでいるのだが、当の本人がああなってしまっては調査は難航するだろう」
「ええ……」

 ヘスリング公爵は謎の昏睡状態に陥り、今も監獄で懇々と眠り続けている。
 目覚めさせる方法を探している状況だ。

「唯一の手掛かりとしては、公爵家の地下室にあった姿見になるか。わずかだが闇魔法の余韻を感じる。もしかしたら、何か新しい試薬作りを君に頼むかもしれない」
「どうぞ何でも頼んでください。私にできることなら何でもします」
「ありがとう、これから忙しくなるだろうに申し訳ないな」
「いえ、お気になさらないでください。そもそも植物関連のお仕事は大好きなので」

 国際関係については、アトラ王国とノルドハイム王国の同盟締結もベルナデッタは支援を頼まれた。
 花粉の出ない植物を何種類も育て、先方に対する誠意を示すのだ。
 すでに彼女は栽培した美しい花や植物を送っており、両国関係の緊張を緩和させた。

 ギルアンとセリーヌに燃やされたあの園芸書については、ベルナデッタが新しく製作してアトラ王国に贈呈した。
 フレデリックたちは大変に喜び、呼び戻された元手伝いが復活の実務作業を担っている。
 作業の応援のため定期的な帰国を打診されており、来月にでも一旦戻る予定だった。

「アトラ王国に帰る際は私も同行する。間違っても勝手に向かうことはないように」

 めざとく釘を刺そうとするラルフにベルナデッタは苦笑する。

「ええ、勝手に行ったりはしません。私が暮らすのは……殿下の住む、エーデル帝国です」

 諸々の経緯が明らかとなったため、王国への帰国を提案された。
 以前と同じ王宮植物園で働けるし、待遇もずっといい。
 それでも、ベルナデッタは丁重に断った。
 帝国の植物ともっと触れ合いたいし、何より……。

(殿下と一緒にいたい……)

 植物博覧会で守られたとき、明確に自覚したと思う。
 芽吹きを感じたのはいつからかと思い返すが、それはわからなかった。
 そういうものなのだろう……恋とは。
 
(一歩進んだ関係なれたらいいと願うのは……きっと高望みになってしまう)

 今のままでいいのだと改めて言い聞かせたとき、ふとラルフが切り出した。
 どことなく緊張した面持ちだ。

「君に見せたいものと話したいことがある。転送魔法に同行してくれるか?」
「はい、わかりました」

 なんだろうと思いながらラルフの隣に立つ。
 ただそれだけで胸が高鳴ってしまうベルナデッタを、白い光が包む込む。
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