母国を追われた草いじり令嬢は、敵国で『宮廷植物医』として新生活を満喫しています~元婚約者様と義妹、お元気ですか? 貴重な植物が全て枯れ、さらに私が渡した大事な園芸書を燃やした?じゃあ、もう無理ですね~

第6話:宮廷植物医、宰相からも強く感謝される

「帝国の希望とはどういうことだい?」
「先ほど、リーベルの樹を復活させたのは他でもない。ここにいるベルナデッタなのだ」

 ラルフの言葉を聞いた男性の顔には、驚きと尊敬と称賛とが入り混じった感情が浮かぶ。
 彼は満面の笑顔に変わり、ベルナデッタに強く感謝する。

「君が癒してくれたのか! ……いやぁ、さっきはすごく驚いたよ。ありがとう、宮殿のみんなも喜んでいるはずだ」
「こちらこそそんなに喜んでくださりありがとうございます。頑張ってよかったです。申し訳ありませんが、お名前を窺ってもよろしいでしょうか」
「え……ラルフ、まさかとは思うけど僕の名前を伝えていなかったんじゃないだろうね」

 男が怪訝な顔を向けると、当のラルフは軽く手を上げた。

「ああ、まだ紹介していなかったな。遅くなって失礼した。彼はマティアス・シュナイダー。三大公爵家の一角、シュナイダー公爵家の現当主で我が帝国の宰相を務める軽薄な男だ」

 ベルナデッタはよろしくお願いします、と頭を下げようとしたのだが、最後の一言に何か反応した方がいいのかと悩み中途半端な態勢で固まってしまった。
 そんな彼女の気苦労を知ってか知らずか、マティアスはため息交じりに言葉を返す。

「僕が軽薄なら君は堅物じゃないか。大槌で叩いても割れないほどね。ベルナデッタ嬢……長いからベルナ嬢と呼ばせてもらうけど、僕とこの男は幼馴染同士なんだ。年は同じだし家柄が近いこともあってこの年まで腐れ縁さ」
「大槌で人間を叩く者などいないし仮にそのような輩がいた場合、帝国憲法に於いて厳しく裁かれるのは明白だ。そして、縁が腐るなど聞いたことがないな」
「だから、今のは単なるたとえ話だよ。誰も本当に君を叩くわけがないだろう。縁の話もよく言われる比喩であってだね……」

(二人は仲良しみたいね)

 軽口を叩き合う様は仲の良さを証明しているようで、ベルナデッタは微笑ましく思うのだった。
 二言三言話した後、ラルフは言い負かされたのか不機嫌な顔で窓の外を見始め、代わりに上機嫌のマティアスが柔らかい笑顔を浮かべた。

「改めて挨拶させて。僕は宰相のマティアスだ、よろしく。宮殿に来てくれてありがとう、快く歓迎するよ」
「ベルナデッタです。よろしくお願いします。実は、私は……」

 出身地について言い淀んだところで、ラルフが引き継いでくれた。

「彼女はアトラ王国の出身だ。帝国に向かう途中、私が潜入調査中だったあの"夜渡商団"に誘拐されそうになっていた。さらには……」

 そのまま、<ニブルフラワー>を開花させて魔法使いも奴隷商人も倒してしまった旨を聞くとマティアスは肩を揺らして笑った。

「……ははは、それはすごい! 彼は宮廷魔法使いの中でも相当の実力者だったのに出し抜くとは。"夜渡商団"については僕も頭を悩ませていたんだよ。奴隷売買なんて許せないし、元宮廷魔法使いという立場もそうだ。リーベルの樹と併せて、ベルナ嬢はすでに二つの問題を解決してくれたんだね。残念ながら今の王国と帝国は敵対関係にあるけど、そんなことは関係ない。優秀な人材は大歓迎だ。宰相としても一国民としても、もう一度お礼を言わせてもらいたい」
「いえ、恐縮です」
「事後報告となるが、私はベルナデッタをこの国の宮廷植物医に任命させてもらった。今後、彼女を中心に植物事情の対策にあたっていく予定だ」

 ラルフの説明に、マティアスは至極納得した様子だった。

「宮廷植物医か……言い得て妙だね。リーベルの樹の治癒を見たら実力を疑う理由はない。僕たちも全力でサポートさせてもらうよ」
「ありがとうございます。アトラ王国とは植生が違うとは思いますが精一杯頑張ります」

 いつの間にか、窓から見える空は藍色だ。
 話しているうちに日が暮れたようで、マティアスが思い出したように提案する。

「おっと、そろそろ夜だ。時間も時間だし、ベルナ嬢の歓迎も兼ねて一緒に食事するのはどうだろう」
「うむ、それは名案だ。植物以外は食生活も問題ないから、帝国の名物を味わってもらえたらいい。……ベルナデッタ、私たちと食事するか? もちろん疲れていたら無理しなくていいが」
「ぜひ、お願いします! 恥ずかしながらとてもお腹が空いていまして」

 照れた様子で告げる彼女にラルフは苦笑した。

「決まりだな。私たちはいつも二階にある専用の食堂で食事をしているからついてきてくれ。帝国と王国の関係も話そう」

 荷物はメイドが先に部屋に運んでくれるそうで、ベルナデッタは重くて申し訳ないと言いながら鞄を預ける。
 いくぶんか身が軽くなった彼女は、ラルフとマティアスの軽口を聞きながら食堂に案内されるのだった。
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