仕立て屋の秘密の採寸~冷徹な投資銀行家が、試着室でネクタイを解くとき~
「お待たせいたしました、高瀬様。本日担当いたします、千早です」
「よろしく頼む。テーラーに女性のフィッターか……珍しいな」
高瀬様はそう言って射抜くような鋭い視線と、他人を寄せ付けないと言わんばかりの冷ややかな声を私に向けた。
普通の人なら、ここで怖気づくのかもしれない。けれど今の私にはどちらも心地よく感じるから、フェチとしてはかなりの重症だ。
「はい。ですが、お客様の魅力を最大限に引き出す技術に性別は関係ありません。それでは本日は、全身の採寸から始めさせていただきますね」
動揺しているのを悟られないように、声だけはいつもの冷静さをキープする。メジャーを手に彼の背後に回り込み距離を縮めると、シトラスの香水の香りが鼻腔をくすぐった。
「……失礼いたします」
緊張しながら、そっと首筋にメジャーを回す。その瞬間、彼がビクッと身体を強張らせた。
「……っ」
「あ、失礼いたしました。少し冷たかったでしょうか?」
「いや、構わない。そのまま続けてくれ」
どうやら彼は、他人に触られることを嫌うタイプのようだ。もしかしたら、これほど無防備に他人を自分のパーソナルスペースに入れたことがないのかもしれない。