仕立て屋の秘密の採寸~冷徹な投資銀行家が、試着室でネクタイを解くとき~
 
 いつもは人を動かす立場の彼が私のメジャーに翻弄されて、じっと息をひそめている。少し緊張した横顔が初々しく、愛おしく思えてしまった。

「次は肩幅を測ります。少し肩の力を抜いてくださいね」
「いや、抜いているつもりだが」
「まだ少し硬いです。私に身体を預けてください」
 
 そう言うと彼の両肩に手を置き、指先で優しく揉みほぐす。ウールの生地越しでも伝わる逞しい僧帽筋の弾力にハッと心を奪われた、そのとき。
 
 鏡越しに、視線がパチリと交差する。彼は私の心の中を見透かすように、じっとこちらを凝視している。

「君の手、すごく熱いな」
「え!?  あ、申し訳ありません。室温のせいでしょうか」
 
 突然深い低音ボイスで囁かれ、心臓が跳ね上がる。顔が一気に熱くなり、赤くなるのを止められそうにない。

「どうだろうな。だが気分は悪くない、気にしなくていい」
 
 彼はそう言って、ふっと視線を逸らした。その耳が、ほんの少しだけ赤くなっているように見える。
 
 もしかして、緊張してる?
 
 冷徹なエリートの思いもよらない反応に、私の理性が騒ぎ出す。私はそれを隠すように慌ててメジャーを持つ手元に視線を落とし、乱れる鼓動を必死に抑えた。




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