独占欲の強い幼馴染はいつも私を噛みたがる。
 
「……はい。」
「あ!どうも!矢吹都ですー!すみません。美咲と約束してて」
「……どうも。……美咲、今出かけてるよ?入れ違いかな?」
「え?!マジか……んー、生もの持ってきちゃって。それだけ渡してもいいですか?そしたら一旦帰ります」
「…………うん、今開けるね」

 都の言葉に渋々優斗は玄関に向かい鍵を開けた。
 扉の先には満面の笑みで都がケーキボックスを抱え、立っている。
「すみません、わざわざ受け取ってもらって」
「大丈夫だよ。……美咲がここの住所教えたの?」
「ん?違いますよ?」
「……は?」

 先ほどまでの笑みを消して強く優斗を見つめる都。




「美咲、いますよね?」





 都の言葉を合図に玄関扉が全開に開けられる。
 優斗の視界の外から急に現れたのは翼と由紀だった。

 2人は優斗の言葉を待たずに中へ入っていく。

「は?!なんでお前らが——」

 由紀は優斗が進めないように部屋の奥への道を塞ぎ、
 その間に翼が中を確認していった。

 キッチンを抜けリビングに入ったすぐ左側で。


 床に横たわり、襲われたように衣服を乱した美咲が顔をぐちゃぐちゃにして泣いていた。


「……っ優斗おまえ!!!」

 翼は怒りを通り越して変に冷静になっていた。
 ただ声は感情を抑えられないのかナイフのように鋭く優斗を突き刺す。

 優斗は翼の鋭い声と視線から目を背け、諦めたように話した。
「美咲が俺から離れようとしたから、引き留めただけだよ」

 翼は殴りたくなる衝動を抑え、冷静に言葉を投げつける。


「これが……ただ引き留めた結果かよ」
「……」

 泣いている美咲を翼は優しく抱き起こす。
 服を直し、苦しそうな顔で美咲の体に自分の上着をかけた。
 
「帰ろう」
「……だめだよ……優斗と話せてないから……」
「無理だ、美咲がこんなになって話し合いなんて」
「……できるよ。私、大丈夫だよ」

 泣いた顔を無理やり笑顔にして話させてと訴える姿に翼はこれ以上言えなかった。

 美咲はゆっくりと立って優斗を呼ぶ。

「優斗……話くらい、してくれるでしょ?」

 彼は悩むように目を泳がせるが、美咲のまっすぐな眼差しにゆっくりと足を動かす。
 すれ違うように翼は美咲のそばを離れ、玄関へと向かった。

「外で、待ってる」
「翼……ありがとう」

 隣で「え?!本当に大丈夫?」と心配している都をよそに扉は閉まる。

 

 あの翼が優斗を殴らず、冷静に話そうとしていた。
 こうして私を信じて優斗と話せるようにしてくれた。
 ……髪色を好みでもない黒にまでして。
 
 私のために変わろうとしてくれている彼に私もできることをしないと。
 美咲は涙を拭いて優斗と向き合う。

 もう、逃げない。
 
 
< 117 / 122 >

この作品をシェア

pagetop