独占欲の強い幼馴染はいつも私を噛みたがる。

第四話 一線

「じゃ、来週の土曜日、公園に10時ね」
 
 優斗は美咲の返事を承諾と受け取って話を進める。
 焦った美咲は誤解を解こうと必死に訂正した。

「へ?!いや、はい ってそのはいじゃなくて!」
「俺とデート、嫌?」
「い、嫌ではないけど……」
「嫌じゃないならしよう。妹の誕生日プレゼント買いたいんだ」
 
「いもう……」
 妹……あ、1人で買いに行くのは恥ずかしいからついてきてほしいってこと?
 
 美咲はデートの意味を知ってホッと胸を撫で下ろす。

「なんだ。変な言い方しないでそのまま言えばいいのに」

 美咲の言葉に優斗はニコニコと微笑む。
 恥ずかしいのかなと思った美咲は優斗の誘いを受け入れた。

「いいよ、由紀と翼も誘う?」

「由紀は趣味が違うし、翼もそういうのはわからないだろうから。できれば2人がいいな」

 2人という提案に少し悩む美咲。
 翼が知ったら意地でもついてきてしまいそうだ。
 悩んだ末、条件を一つ提示する。

「いいけど……翼が知ったら絶対ついてくるし怒るから……」
「内緒にする。それでいい?」

 優斗は話が早くて助かる。
 美咲は首を縦に振った。

「来週の土曜日ね」
「あぁ、よろしく」
 
 優斗と美咲は曲げていた足を伸ばし、立ち上がる。
 長くしゃがんでいたせいで少しふらつくが、なんとか堪えた。
 
 美咲は落としてしまったラムネを拾い、優斗と一緒にレジへ向かった。


 ————————————

 買い物を終えてスタジオへと戻る優斗と美咲。
 中に入ると翼がいなかった。

「あれ、翼は?」
 美咲はドラムの前でスマホを触っていた由紀に聞く。

「多分トイレ、かな?」
「多分?」
「機嫌悪くなって、そのまま出てってから戻ってきてない」
 
 美咲は眉を下げて「えー……」と困る。

「もー、そんなことしてたらスタジオの時間終わっちゃうのに」
 
「そのうち帰ってくるよ」
 優斗は買ってきた飲み物をドリンクホルダーに置く。

「うん……」
 
 美咲は自分のせいかもしれないと考える。
 
 私と優斗が2人でコンビニ行ったから?
 でも、今までだってコンビニくらい行ってるし……
 
 スマホに連絡しようにも翼のスマホはここに置かれたまま。
 
「時間もったいないし、私ちょっと探してくる」
 美咲はスタジオを出て翼を探しに行った。

 
 バタン——

 スタジオの扉が閉まる。
 由紀と優斗だけの空間はとても静かだった。

「……美咲となに話してきたの?」
 
 由紀が先に口を開く。

「なにも?」
「嘘」
「…………。」

 優斗はなにも言わず由紀の方を見た。
 その視線を知らないと無視するように、由紀はスマホを触り続ける。

「機嫌、いいでしょ」
「どうして?」
 
 由紀は目だけを優斗の手に向け、顎で「それ」と教える。
「指。優斗、機嫌がいい時はいつも指でリズムとってるじゃん」
 
 優斗は自分の癖を知らなかった。
 驚いて目を丸くし、自分の指を見つめる。

「知らなかった」
 
「……高校の時からだよ」
 由紀の視線はスマホに戻る。

「……由紀は俺をよく見てるんだね」
 優斗は意味深に言う。

 その意図を理解した由紀は不快そうに顔を顰めた。

「美咲の隣にいたから目に入っただけ」

 それ以上、会話はなかった。


 ————————————

 翼……いない。

 美咲はスタジオ内を探して回るが翼はいなかった。
 もしかして、とスタジオを出てすぐそばの路地にある喫煙所を覗く。

 予想通り、翼は喫煙所で1人タバコを吸っていた。

「やっぱり……」

 美咲はスタジオに呼び戻すため、葉っぱの燃えた匂いが漂う喫煙所に足を踏み入れる。
 
「翼」

 翼は声に反応して顔を少し向けるが、すぐに戻す。
 
「……優斗は」

「もうスタジオ戻ったよ、時間なくなっちゃうし早く戻ろう」

 美咲は腰に手を当てて翼の前に立つ。
 タバコの煙が苦手な美咲は、煙を吸ってしまいゴホッと少しむせる。
 
「っ!悪い」
 
 美咲の咳にハッとした翼はすぐに火を消した。

「……」
「……?」

 火を消してもそこから動こうとせず、翼は路地の壁にしゃがみ込む。
 
「ちょっと……つばさー立ってー」

 美咲は翼の手を握って起き上げようと引っ張るが、体格が全く違う翼はびくともしない。
 んーーっと頑張っていると逆にそのまま引き込まれて翼の胸に飛び込む。

「っあ?!」

 翼は美咲を抱きしめて離さない。

「ちょっ!こんなところでやめてよ!時間!時間なくなるし!」
 美咲は離れようと翼の胸に腕をつくが、翼の力が強くて少しの空間を作り出すことしかできなかった。
 
 翼の瞳が真剣に美咲を捉える。

「美咲、俺と付き合って」

「だ、だから……」
 

 
「大好きなんだ」

 
 
 いつになく真剣な翼の姿に、美咲は言葉を奪われる。
 
 
「お願いだから……俺だけの美咲になって」

 
 
「美咲が俺以外の男の——っ……想像するだけで、耐えられない」
 
 
 翼は感情を押し付けるように美咲に顔を近づけ

 
 そのまま。

 

 
 美咲の許可を得ることなく、欲望のままにキスをした。
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