独占欲の強い幼馴染はいつも私を噛みたがる。
その後はトラブルなく会話も円滑に進み、ライブのセットリストも問題なく決まった。
 「そろそろ休憩しよう」と優斗が音を止め、ベースを降ろす。
 美咲は「ふぅ……」と小さく息を吐いた。
 休憩しようとドリンクホルダーに手を伸ばすが自分の飲み物が見当たらず、買い忘れていたことに気付く。
 それと同時に、伝えることがあったことを思い出した。
「あ、休憩の前にこれ!新しい曲作ったから見て欲しくて」
 美咲は書き留めた楽譜を鞄から取り出し、優斗に渡そうと足を伸ばす。
 足元にあったコードが数センチ浮いていたのか、引っかかりバランスを崩して前へ倒れるように落ちた。

「わっ!?」
「っ!!」
 床へ激突する直前、優斗が美咲を抱きしめた。
 
(あ……あぶなかったぁぁ……)

 あちこちにコードが散らばるスタジオ。
 自分が転けるくらいは気にならないが、転倒の勢いで機材や楽器を壊していたらと思うと頬を冷や汗が伝う。
「優斗……ありがとう」
「……気をつけてね」
 優斗は美咲を立たせ、名残惜しそうに抱きしめた手を離した。
 自分を睨む強い視線に優斗はチラリと翼を見るが、誤魔化すよう反対へと視線を逸らす。
 美咲を見つめる優斗の瞳に友達以上のものを感じた翼は、嫌な予感がした。
 翼は彼を見つめたまま、ギリっと奥歯を鳴らす。
 
「あ、これ。」
 美咲は転けた際に握ってシワの入ってしまった楽譜を3人に渡した。
 受け取った3人はじっと楽譜読むように見つめる。
 4人のバンド【Suit(スート)】の作詞は私以外の誰かが担当する。
 美咲は曲だけ作る、それがいつもの流れだった。
 
 キーボードに戻り、楽譜の曲を弾いて見せる。
「弾くとこんな感じ。いつもと違ってバラードっぽい曲に……どう?」
 3人は黙って美咲のキーボードの曲を聴いた。
「へぇ……いいじゃん。いつものアップテンポなのもいいけど、これも好きだ」
「うん。こういう曲調のは今までなかったからいいね」
「美咲、いつも上手に作る。すごいよ」
 3人に褒められてムズムズと落ち着かない。良かった、気に入ってもらえたようだ。

「よかった!見せるの緊張してたんだよ〜。休憩……私ちょっとコンビニ行ってきていい?」
 財布を取り出して扉を指さす。
 美咲はどうしても飲み物を買いに行きたかった。

「俺もいくよ」
「優斗も?じゃあ一緒に行こう」
 美咲は優斗とスタジオを出ようと扉に進む。
「……」
 翼は、優斗が美咲を抱き止めたさっきのシーンが頭から離れなかった。
 まるで翼の視線から逃げるように横を向いた優斗。
 優斗と美咲が話しているのを見ると、翼は胸の奥がムカムカとして気持ち悪かった。
 得体の知れない不安に襲われて落ち着かなくなる。
 (……なんなんだよ)

 コンビニへ行くためにスタジオの扉を出ようと歩き出した途中だ。
 翼が美咲の手を掴み、抱きしめるように引き寄せる。
「え。」
 美咲は驚いて目を大きく見開く。
 彼女の驚きを無視して、翼は優斗へ見せつけるように鋭く彼の目を見つめながら、美咲の髪へそっと唇を落とす。
「な、なに!?」
 自分の髪に何かが触れる感触。
 翼の突然の行動に美咲は驚きを隠せない。
「……頭に虫、ついてる」
 翼はいつもより低い声で言う。
「え!?やだやだやだ!取って!」
 虫の苦手な美咲はパニック気味だった。

「今やってる」
 髪へ口付けされたことに美咲は気付いていなかった。
 彼女の頭越しに、翼と優斗の視線がぶつかり合う。
 翼の威嚇するような視線に対して無表情の優斗は、ただ静かに目を細めた。
 
「…………。」
 髪に口付ける、その翼の行動が目の前にいる優斗に対する牽制だということも彼女は知らない。
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