こわもて専務の秘密の趣味 ~御曹司は愛する人を運命の糸でからめとる~



 彩羅は硬直してただ彼を見つめた。
 目印にします、と宣言されていた編みぐるみがテーブルに乗っていて、彼が青空羊以外にはありえない。
 彩羅もまた目印として自分が編んだマフラーをしていた。
 それを見たせいだろう、(いか)めしい顔の彼が立ち上がる。

「華糸さんですね。お待ちしていました」
「は、はい……」
 彩羅の心臓が「逃げろ」と早鐘を打つ。が、怖すぎて逃げられず、彼の向かいに座った。しくしく痛み始めた胃のあたりを押さえて店員にコーヒーを頼み、紙袋を引き寄せて持ち手をぎゅっと握る。

 女性だと思っていたのに。
 ちらりと見た彼は今日もイケメンだ。ただし、怖い。

 コーヒーを口にする姿はまるで映画のワンシーンだ。
 カップを持つ指先も美しく、やっぱり彼が青空羊さんだ、と絶望的な気持ちになった。
 よく見れば骨ばっていて男性らしい手だ。きめ細かい白い肌とつややかな爪のせいで女性だと思い込んでいたようだ。

「どうかしましたか?」
 ついガン見していた彩羅は慌てて首をふる。
 御曹司で専務。粗相をしたらどうなるかわからない。

「すみません、緊張していて」
「わかります。俺も緊張していて。無作法がありましたらすみません」

 ぎこちなく笑みを浮かべる彼に、もしかして、と彩羅は思う。彼は自分が同じ会社で働いていることに気づいてない?
 辞めるから同じ会社じゃなくなるし、だったら別にそんなに緊張する必要なくない?
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