こわもて専務の秘密の趣味 ~御曹司は愛する人を運命の糸でからめとる~
「だったら私、英語を教えてもらいたいかも」
「いくらでも」
 とたんに万葉はにっこりと答える。
 みんな仲良くて、平和で、こんな時間がずっと続いたらいいのに。
 スマホに着信があり、万葉は席を立った。少し離れたところで電話に出る。
 彩羅たちは電話の邪魔にならないように小声で会話を楽しみながら食事をした。
「……相手はそうとう強気だな。貴重な国産の天蚕(てんさん)のシルクだ、そんな安くは売れない。強気で返せ。妥協ではなく最高ラインを考えろ。ドル建てでキロあたり……」
 気にしないようにしても、どうしても万葉の声が耳に届き、彩羅は気になってしまう。
 いつになく真剣な顔はかっこよくて、彩羅は思わず見とれてしまう。
 電話を終えた直後、次の着信がある。
 しばらく相手の声に耳を傾けていた万葉は、わかった、と答える。
「その繊維は消防署員の命を守る技術を詰め込んでいるんだ。重々頼んだぞ」
 最後に念を押し、電話を切って戻ってくる。
「悪い、仕事の話だった」
 すごいな、と彩羅はあらためて思う。
 消防署員の命を守る繊維、ということは防火服の類だろうか。
 彩羅は高揚とともに、ぞくっとした。
 糸は生活を支えている。わかっていたつもりだが、考えるよりもっと重要なものだったのだ。
 彼の会社が生み出す糸は、生活だけではなく、命を守る。
 糸は人の命を、もっと言えば運命を乗せている気がしてくる。
 そんなすごい会社を動かしている人が、目の前にいるのだ。
 やはり万葉を遠く感じてしまい、寂しさが胸に沸いた。
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