こわもて専務の秘密の趣味 ~御曹司は愛する人を運命の糸でからめとる~
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「編み物フェア、行った?」
 客席から聞こえた声に、彩羅はつい目を向けていた。
「ネットでステージの中継は見たよ。蜘蛛の糸の振袖。じかに見たかったなあ」
「私はキングとエンペラーの対決を生で見たかった」
「提案したのが社内の人なんだってね。『私の提案が採用された!』って喜んでるの、ネットで見たよ」
 彩羅は苦々しい気持ちでそれを聞いた。
 もしかして、その人物は月菜だろうか。
 だとしたら発案は自分だし、彼女はそれをバカにしたのに。
 今は職場が違うのに、どうして奪われることになってしまったのだろう。
 フェアの夜はエンペラーVSキングが一言投稿サイトでトレンド一位になってすごく嬉しかったのに、現在は暗澹(あんたん)が胸をしめる。
「ショート動画でも編み物やってみたって増えたね」
「ハッシュタグ『編み物男子』がいっぱい。編み物対決の動画、この人が引用コメントしてるよ」
 そう言って挙げた名前は海外の有名な女優。
「専務のアカウントがあれば即フォローするのに」
「ないみたいだね。残念」
 スマホを見ながら女性たちがくすくすと笑い合う。
 男性の編み物が浸透するのは素敵だと思う。
 万葉が理解されていく。
 彼を理解しているのは自分だけだと思っていたのに、周囲が、世界が、彼を知っていく。
 男性が堂々と編み物を編める世界はきっと幸せが増えた世界だ。
 なのに。
 私だけのものだったはずなのに。みんなのものになってしまう。
 彩羅はため息をついてカウンターの中に引っ込んだ。
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