こわもて専務の秘密の趣味 ~御曹司は愛する人を運命の糸でからめとる~
面接をクリアし、糸条紡績も無事に退職した。
有休を消化する間に毛糸をフリマサイトなどで売って処分した。多少の売れ残りがあるが、いつでも処分できるだろう。
そうして初出勤の日。
「編み物カフェだったなんてね」
彩羅が悩ましく建物の看板を見上げると、イメージキャラの羊が笑顔で編み物を編んでいる。
ここは糸条紡績本社から五分ほど歩いた場所にある手芸ショップ、シジョウクラフト。
糸条グループの経営であり、アンテナショップとしてオープンしたこの店の一角に新設されたカフェコーナー『AMUAMU』が彩羅の職場となる。
それを知ったのは面接のとき。
面接の場として知らされた住所に行ったら手芸ショップで、怪訝に思いながら入り、カフェコーナーのイケメン店長に説明され、目が点になった。
思えば事務をしていたときにカフェコーナーのオープンは話題になっていた。行ってみたいと思いながら、ばたばたしていたからすっかり忘れていた。
編み物が嫌になったと話したそばから編み物カフェを紹介されるとは予想外すぎたが、青空羊に悪意があるはずがない。
面接まで来て「やっぱり辞めます」とも言えずにいたら合格してしまい、初出勤となった。
編み物が苦手で正社員の仕事を探していることは面接で店長に伝えたが、逆に「正直だね」と好感を持ってもらえた。
月菜や慶太が来たら、と怖くなったが、来るわけがない、と思い直した。手芸ショップに興味はないだろうし、カフェはほかにもたくさんある。
「ここには前の私を知る人なんていないし、本社の人もそうは来ないだろうし、次が見つかるまでがんばろ」
事前の説明通り、裏口から入ってバックルームで身支度を整え、店に出る。