こわもて専務の秘密の趣味 ~御曹司は愛する人を運命の糸でからめとる~
「強奪でもしたか」
 万葉は顔をしかめる。
「窃盗はれっきとした犯罪だが……警察に届けるのは、彩羅さんは嫌がるだろうな」
 謙虚すぎて、自分の功績を伝えられない彩羅。
 万葉は会社の利益のために相手をどう納得させるか、自社をどううまくアピールするか、そういったことで神経をすり減らしてきた。謙虚になんてやっていたら飲み込まれてしまう。
 彩羅はまったく対局にある。編み物がなければつながらなかった縁の糸の先にいた愛しい女性(ひと)
 仕事柄レセプションの出席が多いが、そこで出会う女性たちは自分をブランド品のひとつのように見定めてくる。彩羅にはそういった目線がない。
 華糸と青空羊だから屈託なく話せた、それはその通りだ。
 だが、だからこそ。
「彼女自身にひかれたんだ。うわっつらではなく」
 だが、自分はどうだろうか。
 青空羊、という皮を、ずっとかぶっていたかもしれない。
 自分を見てほしいと言いながら、自分自身を見せていなかったのでは。
「彼女が自信をくれたのにな」
 彩羅がいたからネットにさらされても開き直れたし、編み物対決も可能だった。なおかつ対決は好評で、毛糸の売り上げが上がった。
 すべては彩羅がいたからだ。
 その彼女が困っているなら、助けたい。
 だが、助けてと言ってこないのもなにか考えがあるのだろう。
「どうしたものか」
 万葉はスマホをデスクに置いて、ふうっと息をつく。
 窓の外はすでに暗く、月が空に昇っていた。
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