こわもて専務の秘密の趣味 ~御曹司は愛する人を運命の糸でからめとる~
「万葉では守り切れない。実際、守ってないよね、君のこと。俺なら守れるよ、俺に逃げておいで」
「逃げるって……」
 それはずっと自分がしてきたことだ。月菜から逃げて、慶太から逃げて、会社での悪評から逃げて。

 逃げるのが悪いことだなんて思わない。
 だけど、月菜も慶太も悪評も、逃げる自分をずっと追いかけてきた。

「フォレストで君を正社員で雇うよ。フォレストは第一志望だったんだよね。君ならすぐに店長になれるし、その上だって目指せる。俺の名前を出せば誰も君を傷つけられない」

 ふふ、と笑う拓斗の笑みにどす黒いものが混じって見えて、彩羅は気を紛らわせるようにカフェオレを飲んだ。
 つまり、御曹司には誰も逆らえないという話ではないだろうか。

 彼は優しい。
 逃げ込めば、真綿でくるむように保護してくれるだろう。大事な宝石を宝石箱に入れて守るように、誰からも、なにもかもから。
 彼の権力の庇護下で仕事をすれば順調にいくだろうが、それにはどこかずるさを感じる。

 月菜は、自分の成果を取り上げて正社員になった。
 そうやってずるく生きたほうが、現実には正しいのかもしれない。
 だけど。

 鋭い目つきの万葉が脳裏に浮かぶ。
 きっと万葉はずっと戦ってきた。
 常に気をはって、会社のために身を挺し、編み物だけを唯一の楽しみにしていた万葉。
 ネットではそれを微塵も感じさせなかった。
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