こわもて専務の秘密の趣味 ~御曹司は愛する人を運命の糸でからめとる~
「椛川さん、髪は結んで」
「わすってた」
 拓斗に言われ、マリリンはポケットからシュシュを取りだし、ささっと結ぶ。

「萌木さんは経験者だから頼りにしてるよ」
「やばっ。あーしも頼りにする!」
 きらきらした目で見られ、きっと悪い子じゃないんだよな、と彩羅は笑みを返した。



 編み物カフェはネットカフェや猫カフェと同じく時間制で、パック料金もある。この店ではワンオーダーで六十分が付与され、超過後は十分ごとに料金が加算される。
 メニューはドリンクメと軽食。ランチはコーヒーチェーン『フォレスト』のセントラルキッチンで作られたものが届けられ、仕上げをしてから出すという。
 隣に手芸ショップがあるから材料が足りないときにはすぐに買いに行けるのがいいな、と彩羅は思う。

 編み物カフェなんて月菜と慶太を思い出して一日中不快かと思ったが、仕事に必死でそんな暇はなかった。
 カフェで楽しそうに編んでいる人を見たときには心が痛んだ。
 こんなことになる前に編み物カフェがあったら青空羊と一緒に来たかったと思ったんだろうな。

 だけど声をかける勇気なんてなかっただろう。青空羊と会うきっかけが自分を傷つける存在だったふたりだなんて、皮肉だ。運命の糸はどこでどうつながるかわからない。

 閉店は手芸ショップと同じ七時で、六時半にはオーダーストップとなる。
 無事に六時半を迎えてクローズドの札を入り口にかけたときだった。

 手芸店の自動ドアが開き、ひとりの男性が入ってきた。その手には小さなブーケがある。
 入ってきたのは青空羊……いや、糸条万葉というべきか。
 なにをしに来たのかと驚いていると、彼は彩羅に歩み寄る。
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