こわもて専務の秘密の趣味 ~御曹司は愛する人を運命の糸でからめとる~
「あーしの自慢の彼。ちなみにこの前の模試、東大A判定」
「編み物はいい息抜きになります。防寒着として優秀だからこそニットおよび編み物はすたれずに存在しています。編んだときに自然にカールするのが気になりますが、これを研究した大学がありまして、ループの形と力学特性が相関しているそうです」

 金髪の彼は一方的にアスペクト比が、Bスプライト曲線が、などと続ける。
 慶太は圧倒されて口をぱくぱくさせ、彩羅もまたあっけにとられた。以前のちゃらい感じとまったく違っている。

「より詳しい解析で、工学的な設計への反映が期待できます。具体的にはウェラブル端末やアクチュエーターなど。糸条紡績では人工筋肉繊維の開発も積極的だと聞きました。これでも編み物は社会に貢献してない無用の長物ですかね。彼女から聞いたところ糸条にお勤めのようですが知らないんですか?」

「なんだよ、お前……」
 言い返す慶太の言葉は続かず、声は上ずっている。

「帰って。帰らないなら警察を呼ぶから」
 彩羅に宣告され、慶太はがくりと肩を落とした。そのままとぼとぼと店を出ていく。

「すみません」
 彩羅はみんなに頭を下げた。

「問題ありません」
「立派だったよ」
 金髪の彼に続き、拓斗が笑みを返す。

「彩羅っちの周りは最悪な人ばっか」
「今はいい人ばっかりだよ。椛川さんとか、店長とか」

「万葉っちとか?」
 マリリンがニマニマしながら言いう。

「……そうだね」
 彩羅は頬を朱に染めてうつむいた。

「あー、ごちそうさま」
 拓斗がからかうように言い、彩羅は照れて目を窓の外に向ける。
 空は晴れ渡り、今日は暖かくなりそうだった。
< 205 / 212 >

この作品をシェア

pagetop