こわもて専務の秘密の趣味 ~御曹司は愛する人を運命の糸でからめとる~
 ギリシャ神話で女神アテナと織物対決をしたアラクネの紹介の次にはフェアで展示されていた蜘蛛の糸の振袖と、人工蜘蛛の糸のドレスもあった。

「何度見てもすごいです」
「これを作ってくれた人たちには敬意しかない」

 天然の蜘蛛の糸を使ったものも、人工の蜘蛛の糸を使ったものも。
 どちらも人々のたゆまぬ努力の結晶だ。

「ウェブサイトのウェブは蜘蛛の巣の意味があるが、君と出会ったのはウェブで、こうして今一緒に蜘蛛の糸のドレスを見ている。なんだか不思議な縁を感じるよ」
「そういえばインターネットも、電子網と訳されますね。出会ったきっかけも編み物……糸ですもんね。人と人をつなぐのは、いつだって糸なんですね」
 彩羅が笑うと、万葉はまぶしいものを見るように目を細めた。

「君と出会えて、編み物を趣味としていたことをこれほど感謝したことはない。教えてくれた母にも感謝している」
「私も、感謝してます」
 青空羊と――いや、万葉と出会う大元を作ってくれたのだから。

「実は蜘蛛の糸を作ったきっかけも母なんだ」
「お母さまが?」

「小説の『蜘蛛の糸』を読んでやりきれない気持ちになっていたときに、だったら自分で蜘蛛の糸を作って救ったらどうだ、と言われてね。それが心に残って、入社してから人工の蜘蛛の糸の開発に注力した」
 それが先日のフェアで発表された糸だ。

「俺の人生はつくづく糸と縁がある」
 彩羅は頷きながら、編み物に否定的だったという彼の父を思い出す。
 あとは彼の父が理解してくれたら、どれだけ彼は心が安らぐだろう。

「父と最近、話をしてね」
 気になった矢先に言われ、彩羅はどきっとした。
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