こわもて専務の秘密の趣味 ~御曹司は愛する人を運命の糸でからめとる~
「テンションサゲってこと。常識っしょ」
 そんな常識は知らない、と彩羅は苦笑する。

「暇すぎ、つらたん」
 マリリンが口をとがらせるから、彩羅は布巾を手に取った。
「一緒にテーブルふいたりしよっか。暇よりましだよ。お店はきれいになるし、一石二鳥」
「おけまる。マインド強めでいく」
 マリリンは気合を入れ、彩羅と一緒に雑事をこなしていく。

 十一時を過ぎるとぽつぽつ客が増え、ランチタイムにはそれなりににぎわった。近隣のオフィスからランチを食べにくるOLがいるらしい。

「ここいいでしょ」
「だね。雰囲気もいいし、おいしいし、イケメンが鑑賞できてお得」
 聞こえてきた会話に内心でうんうんと頷き、彩羅はオープンキッチンで料理をする拓斗を見る。
 拓斗は涼しい顔で重そうなフライパンを振っている。

「だけどあの子。あの爪、ないわ」
「接客業なのに」
 ぼそぼそとささやく声が聞こえる。

 拓斗がネイルを注意しないのは、男性だから注意しづらいのだろうか。自分が注意したほうがいいのだろうか。バイトなのにおせっかいだろうか。

 ランチタイムを過ぎれば客の波はひくが、今度はティータイムの利用者が来る。編み物を持ってくるお客さんもちらほらいて、その姿を見ると胸がざわざわする。

 好きと嫌いがせめぎあってるんだ、と胸を押さえる。
 いったいどちらが勝つのだろう。

 彩羅は逃げるようにカウンターに引っ込む。
 拓斗は翌日の仕込みをすでに始めていた。
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