こわもて専務の秘密の趣味 ~御曹司は愛する人を運命の糸でからめとる~
 編み物にはまってからは手芸ショップにも行くようになったが、いくつかの店が売り上げ不振で閉業して悲しく思っている。シジョウクラフトも下火なのだろう。

「手芸業界を盛り上げるためにカフェを作ったらしいよ。独立店舗にするとうまくいかなかったときの撤退が面倒だからこの店に併設したんだって」
「てったい? へーせつ?」
 聞き返され、彩羅は言葉を説明する。と、ふうん、とマリリンは頷く。
「萌木さん、頭よっ」

 ほめられて、彩羅は思わず照れて、さらに説明する。
「糸条紡績は明治時代にできた会社で、生糸……絹産業で大きくなって、今では宇宙服に使う糸とか手術用の糸、釣りに使う糸、弦楽器の弦、いろんな糸を作ってるの。新しく機能的で丈夫な糸や、絹に匹敵するような糸なんかもどんどん開発してるのよ。もちろん布地も作ってるんだよ。車のシートに使う布とか卸してるって」

「彩羅っち、物知り~!」
「たまたまだよ」

 もとは糸条紡績に勤めていてたから、会社の経緯を知っていただけだ。
 最初は糸と言えば布を織る、服を作る、くらいの認識しかなかったが、あれも糸、これも糸、と多岐にわたる現実に、糸条紡績の糸は気づかないうちに網目のように世界に広がっているのだな、と思ったものだった。



 六時半になるとまた万葉が現れ、閉店の札にかまわず入ってきた。
「また来たんだ?」
 拓斗がカウンターから顔をのぞかせる。

「なんか食わせてくれ」
「オーダーストップなんだけど」
「硬いこと言うなよ」
 万葉が席に座り、拓斗は肩をすくめた。
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