こわもて専務の秘密の趣味 ~御曹司は愛する人を運命の糸でからめとる~
「知ってるよ。面接したの俺だから」
「どうして辞めたのかも聞いたんですか?」
「個人情報は言えないよ」
 優しい、けれどきっぱりした拓斗の返事。

「どうして萌木さんを雇ったんですか?」
「どうしてそんなこと聞くのかな?」
 拓斗は質問で返す。
 月菜は気弱そうにうつむき、それから決心したように顔を上げた。

「実は萌木さんにいじめられてて……」

 彩羅の顔からさあっと血の気が引いた。
 前と同じだ。
 止めないと。

 だけど、今出たら盗み聞きをしたと責められるだろう。悪手だ。
 なんて間が悪いのだろう。いっそ引き返したほうがいい。
 そう思うのに、怖くて足が動かない。

「いつ? 萌木さんはまったくショップに行かないよ?」
 拓斗は不思議そうに聞き返す。

「今の話じゃないんです。前は糸条紡績の派遣で一緒だったんです。友達だと思ってたのに、物を隠されたり仕事の成果をとられたり。編み物が趣味だったんですけど、作品を取り上げられて、彼女が編んだって周りに自慢するし。私、ショックでもう編めません」

 なんていう嘘を。
 彩羅は悔しくて震える。
 いじめを現在進行形のように言い、指摘されるとすぐさま言い繕って塗り替える。彩羅にはとうていできそうもない。

 ここで抗議にいかないのは逃げではないのだろうか。
 逃げてもなにも解決しないのに。

 だけど、お店で言い返してもめたら迷惑になってしまう。
 我慢してやりすごすしかないのでは。

 だけど、そうしたら拓斗は月菜の言い分を信じたままだ。
 奪われた自分の名誉は、どうやって取り戻せばいい?
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