こわもて専務の秘密の趣味 ~御曹司は愛する人を運命の糸でからめとる~



 休憩から戻った彩羅は、明るい気持ちで仕事を再開した。
 今朝まで重かった心が、驚くほどの軽さだ。

 だが、それも夕方までだった。
 六時半を過ぎ、自動ドアが開く。
 現れた万葉を見た瞬間、彩羅の心臓が凍った。

「いらっしゃいませー」
 手芸ショップから声がかかる。
 月菜だ。
 月菜なら慶太という恋人がいても万葉に近づくに違いない。

 嫌だ。やめて。来ないで。

 叫びが喉まで上がってくる。
 が、万葉はさっそうとカフェに入ってくる。

 もし万葉が月菜を好きになったら。
 そんなの耐えられない。
 大事な人なのに。
 カウンターの中で、彩羅は動けず、収まっていた胃痛が急に存在を示し始める。

「また来たな。今日はどうする?」
「コーヒーだけでいい」
 拓斗に答え、万葉はどさっと椅子に座る。

 どうしてよりによって、手芸ショップに一番近い席に座ったのだろう。
 いや、そこが一番出入り口に近いからだ。
 だけど、月菜が声をかけやすい位置でもある。
 痛む胃を抱え、彩羅は水を持っていく。

「いらっしゃいませ」
 彩羅の他人行儀な声に、万葉の眉がいぶかしげに寄った。
 逃げるようにカウンターに戻ると、拓斗がこそっとささやいてきた。
< 44 / 212 >

この作品をシェア

pagetop