こわもて専務の秘密の趣味 ~御曹司は愛する人を運命の糸でからめとる~
休憩から戻った彩羅は、明るい気持ちで仕事を再開した。
今朝まで重かった心が、驚くほどの軽さだ。
だが、それも夕方までだった。
六時半を過ぎ、自動ドアが開く。
現れた万葉を見た瞬間、彩羅の心臓が凍った。
「いらっしゃいませー」
手芸ショップから声がかかる。
月菜だ。
月菜なら慶太という恋人がいても万葉に近づくに違いない。
嫌だ。やめて。来ないで。
叫びが喉まで上がってくる。
が、万葉はさっそうとカフェに入ってくる。
もし万葉が月菜を好きになったら。
そんなの耐えられない。
大事な人なのに。
カウンターの中で、彩羅は動けず、収まっていた胃痛が急に存在を示し始める。
「また来たな。今日はどうする?」
「コーヒーだけでいい」
拓斗に答え、万葉はどさっと椅子に座る。
どうしてよりによって、手芸ショップに一番近い席に座ったのだろう。
いや、そこが一番出入り口に近いからだ。
だけど、月菜が声をかけやすい位置でもある。
痛む胃を抱え、彩羅は水を持っていく。
「いらっしゃいませ」
彩羅の他人行儀な声に、万葉の眉がいぶかしげに寄った。
逃げるようにカウンターに戻ると、拓斗がこそっとささやいてきた。