こわもて専務の秘密の趣味 ~御曹司は愛する人を運命の糸でからめとる~
 その日も万葉が来ているので、来店頻度が多すぎるのではと心配になった。
「お仕事、大丈夫ですか?」
「問題ない」
 彼はすまし顔でコーヒーを飲む。

「今日は彩羅さんが淹れたな」
「すぐばれますね」
 彩羅は苦笑する。淹れ方でばれるなんて精進が足りないと思う。
 タイムカードを切ったマリリンが隣のテーブルで編み物をしていたが、ふと顔を上げた。

「万葉っちは編み物しないの?」
「は?」
 マリリンに意表をつかれ、万葉は動揺した。

「楽しいよ、編み物!」
「あ、ああ」
 しどろもどろに、万葉はただ頷く。

「こいつ、お見合い断ったんだってさ」
 にやにやしながら拓斗が現れて話を変えた。

「お見合い、ですか」
「そ。御曹司にありがち、政略がらみのお見合い。まあ普通に結婚適齢期だから結婚しろよってのもあるんだろうけど」

 政略結婚なんて言葉が普通に出てくるなんて。
 雲上人なのだ、と思い出させられる。一般市民の自分とどうにかなることはないだろう。
 それから怪訝に思う。自分は彼とどうにかなりたいのだろうか。

「万葉っちが御曹司とか、超ウケるんですけど! 草生える!」
 マリリンが笑い、彩羅は毒気を抜かれた。
 なにが面白いのかわからないが、彼女のフラットな態度は爽快だ。
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