こわもて専務の秘密の趣味 ~御曹司は愛する人を運命の糸でからめとる~
「だからフォレストのセントラルキッチンで作ったものをこの店でも使ってるんですね」
「そうだよ」
 拓斗はにこにこと肯定する。

「私、フォレストの就職試験受けましたよ。第一希望だったんです。落ちちゃったからムーンラビットに行きました。フォレストと並んで第一希望でした」
「あそこ、いい店だったんだけど、倒産して残念だね。原価が高すぎた。いいものを出そうとしすぎて物価の変動についていけなかったんだ」

「しかも低価格チェーンに対抗して値下げしてましたよね。むしろ値上げして高級路線に転向するべきだって思ってました」
「へえ、俺も同じこと思ってたんだけど……いいな、萌木さん。うちにほしい」
 拓斗の目が獲物を狙うように細まる。

「ダメだ!」
 立ち上がった万葉が後ろから彩羅を抱きしめ、彩羅はパニックになって硬直した。
 くくく、と拓斗が笑いを漏らす。

「あ、あの……」
「す、すまない!」
 万葉はすぐさま解放してくれたが、彩羅の心臓は激しく鼓動を繰り返す。

「そ、それで就職の際は糸条は検討してもらえたのかな」
 対抗意識を見せながら万葉が尋ねるのだが。
「眼中にありませんでした!」
 明るくはっきり言ってしまい、彩羅は慌てて口をおさえる。

「友達はすごく狙ってましたよ、世界的大企業ですごいって」
 慌てて付け加えたフォローに万葉は複雑そうな顔をして、くくく、と拓斗が笑う。

「今日は鞄も持ってきて、どうした?」
 気が付いた拓斗が突っ込むと、万葉は気を取り直したように鞄を座席の通路側に置いた。A4の書類が入るサイズの黒いビジネスバッグだ。
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