【1話からの長編大賞用】冴えなかった元彼が、王子様に変身して帰ってきた。
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年が明けてから、理人はいくつか抱えているプロジェクトの一つが本格的に始動してから余計に忙しくなった。
泊まりがけの出張が立て続けに入り、夜も遅くまで打ち合わせや社内でのミーティングに明け暮れている。
秘書時代の悠里は自分の受け持つ担当が多忙になれば同じように過密なスケジュールを共に過ごしていた。
けれど、今の会社では総務としてきっちりと朝の九時から夕方の五時までの決められた時間での仕事量になっている。
「──ねぇ、やっぱりあの噂本当なんじゃない?」
「人事が言ってた噂よね?うちの社長の娘が本格的にうちの仕事に入ってくるってやつでしょ?」
「今後もいくつかうちが抱えてるプロジェクトにも参加するって営業部の人も言ってたわよ?」
朝、悠里が出勤してエレベーターを待っていると、うしろから聞こえてきた噂に意識が向いた。
高元とバーに行ったあの日、高元から聞いた噂話がどうやら本当のことになっているようだった。
「おはようございます」
いつも通りに挨拶を交わして、自分の席に荷物を下ろす。
そして慣れた手つきでパソコンを起動させながら、悠里はなぜか嫌な予感がしてならなかった。
理人から同棲の件は俺に任せてと言われて以来、悠里はそれがどうなったのかわからない。
高元も年始からかなり多忙になっているのか、それとも理人からキツく言われているからなのか、あれからいつものように悠里を誘ってくることは一度もなかった。
けれど、理人の口から社長の娘との縁談についての話は一度もないまま。
本当にただの噂話だったのか、それとも悠里を傷つけないためにわざと話題には挙げてこないのか──。
悠里の不安はまるでしこりのように、ずっと心の中に居続けている。
「また出張なの?それは大変だね」
「たまに自分が今どこにいるのかわからなくなるときがあるよ……」
「まだかなり寒いし、無理だけはしないでね?」
「うん、悠里ちゃんもね。俺、悠里ちゃんと一緒に暮らすまでは割と家を空けるのとかどうってことなかったんだけど……今は出張が大嫌い。極力オンライン希望出してるんだけど、どうしても足を運ばなきゃ進まないことばっかりでね」
理人は最近日課になりつつある、悠里の髪を乾かす役目を今日も全うしながら、今後の大まかな予定を悠里に伝える。
あたたかい空気と一緒に、理人の長い指が悠里の髪を優しく掬ってはわしゃわしゃと乾かしていく。
「何より悠里ちゃんと何日も離れるのが一番つらい」
「だ、大丈夫だよ!一ヶ月とかそんな長い期間じゃないし、毎日連絡するし!」
「……連絡だけじゃ、足りないかも」
ドライヤーの電源を切ると、理人はそっと悠里の頬手を添える。
それがキスの合図だとわかるのは、二人が少しずつ培ってきた時間と絆の証だった。
「明日、まだ仕事だけど……悠里ちゃん平気?」
「わ、私は全然……っ。それより理人くんのほうが大変なんだし」
「俺は、君を抱きしめてる時間が何より好きだから平気だよ」
どれだけの時間を一緒に過ごしても、どれだけ体を重ねても、理人はその都度悠里のことがまた好きになる。
悠里は理人が少しだけ余裕をなくして自分を求めてくる瞬間がたまらなく好きだった。
理人が作り出すリズムに揺さぶられながら、悠里はどうかこの人がずっとこれからもそばにいてくれますようにと願っていた。