【1話からの長編大賞用】冴えなかった元彼が、王子様に変身して帰ってきた。
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それから程なくして、噂どおり社長の娘である結城紗彩は四ツ谷食品の本社で働くことになった。
各部署に挨拶をしに回っているらしく、紗彩は総務部にも丁寧な挨拶をしにやってきた。
「これから本格的にこちらの本社で働かせていただくことになりました、結城紗彩と申します。まだまだ至らないところばかりですが、精一杯頑張りたいと思いますので、今後ともご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いいたします」
──綺麗な人だった。
キャラメル色の長い髪をふわふわに仕上げていて、丁寧なメイクとファッションがとても優れている。
大学を卒業してから一年間は日本の本社で働いたのち、あとは海外の支社を回っていた紗彩は、このたび帰国してこちらに席を置くことになった。
社長の娘ということを一切鼻にかけることもなく、姿勢良く堂々と挨拶をする紗彩のことを総務のみんなが歓迎した。
「私は当面、経営企画部に配属されるとのことですが、総務の皆様とはこれからもたくさんお付き合いがあるかと思いますので、頻繁に顔を出させていただくかもしれません。その時はまた何卒よろしくお願いいたします」
「(経営企画部……理人くんと同じ部署だ)」
大きな拍手がフロア内を響かせる中、悠里だけが一抹の不安を抱えていた。
「奥畑ちゃん、ちょっとごめんね!悪いんだけどこれ、十三階の第一会議室に届けてもらえない?」
「もちろんです。行ってきますね」
「本当ありがとう!助かる!」
年明けの一月はどこの部署も、年末年始の大型連休の対価だと言わんばかりに忙しくなる。
真紀子から手渡されたのは、今年に入ってすぐに始動した大型プロジェクトの追加資料だった。
予定外に会議や打ち合わせが頻繁に入ってくるため、会議室の管理や準備を担っている総務部もそれに並行して忙しさが増していく。
受け取った資料に記載されているプロジェクトの主要メンバーには、理人の名前が入っていた。
そして、そのとなりには結城紗彩の文字も書かれている。
悠里はサッと席を立ってフロアをあとにして、タイミングよくやってきたエレベーターに乗り込んだ。
十三階のフロアは役員会議や重要な打ち合わせのみ使用される特別な階で、総務部のある階とは絨毯の毛足からして違っていた。
静まり返った廊下を歩いて、真紀子に託された目的の第一会議室へと近づいた悠里の足が、ふと止まる。
ガラス張りになった会議室のブラインドが、今日は少しだけ開いていた。そこから漏れ見える光景に、悠里は息をするのを忘れた。
長方形の大きなマホガニーのテーブル。
その中心に立って、ホワイトボードの前にいる理人と対等に言葉を交わしている一人の女性がいた。
透き通るような白い肌に、緩やかに巻かれた艶やかなキャラメル色が特徴だった。
洗練されたネイビーのパンツスーツを完璧に着こなして、凛とした姿勢で理人に微笑みかけている。
──結城紗彩。
「……っ」
悠里は抱えていた資料を胸の前にギュッと抱きしめた。
会議室の中にいる二人は、まるで一枚の絵のように美しかった。
理人がワクワクした表情で何かを提案すると、紗彩は聡明な瞳を輝かせて頷いて、そして意見を出していく。
そのやり取りに、悠里が入り込む隙など一ミリも存在しなかった。