【1話からの長編大賞用】冴えなかった元彼が、王子様に変身して帰ってきた。
「(すごい……。理人くんとあんなに堂々と仕事の話をしてる)」
いつも理人に守られて、甘やかされてばかりの自分とは違う。
結城紗彩は、理人の隣を並んで歩ける女性だった。
その時、紗彩の手から拍子にペンが滑り落ちた。紳士な理人はすかさずそれを拾い上げる。二人の指先が僅かに触れ、紗彩が「ありがとうございます、丹波さん」と言いながら花が開いたように微笑んだ。
これ以上見てはいけない、見ないほうがいいとわかっているのに、二人から目が離せない。
理人もまた、悠里に向ける愛おしく甘い笑顔とは違った、仕事上のパートナーに向ける敬意と信頼に満ちた、大人の男の顔で微笑み返していた。
「(ダメ。見ちゃ……ダメッ)」
悠里の胸の奥で、何かが軋む音がする。
〝いずれ、彼も僕と同じ選択をすると思うよ?〟
優秀な人間は、自分に見合った相手を選ぶ。
対等に話し合い、お互いを高め合っていける、自分にとって一番『正解』の相手を。
理人は誰もが認めるエリートだ。
これからのキャリアを考えれば、どちらの女性を選ぶのが「正解」なのか、火を見るより明らかだった。
「……あれ、総務の奥畑さんですよね?どうかしましたか?」
ガラス越しに二人の姿を見ていたとき、ちょうど通りかかった理人の同僚である片山に声をかけられて、悠里はビクッと肩を揺らした。
「あ、えっと、すみません。今日の会議の追加資料をお持ちしました」
「あぁ、ありがとうございます!僕が持って入りますよ」
「すみません。お願いします」
逃げるように資料を片山に押し付けると、悠里は踵を返して足早にその場を立ち去った。
十三階の会議室を使える彼らと、その中に入る事すらできない悠里。
振り返ることなど、できなかった。