【1話からの長編大賞用】冴えなかった元彼が、王子様に変身して帰ってきた。
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「──以上が、各部署への通達事項になります。皆様、お疲れ様でした」
午後の総務部での定例ミーティングを終えた悠里は、大きく息を吐き出して自分の席に戻った。
理人はあれから事前に報告を受けていたとおり、十日間の長い出張に出ていた。
あの日見た会議室での光景が頭から離れられない悠里は、仕事でミスをしないようにといつも以上に気を張っているせいでどっと疲労が押し寄せてくる。
「あの、すみません」
ふいに、聞き慣れない澄んだ声がフロアに響いた。
悠里が顔を上げると、そこに立っていたのは結城紗彩だった。
間近で見る彼女は、息を呑むほどに美しかった。
高級な香水の仄かな香りが、周囲の空気を一瞬で華やかに染め上げる。
「総務部の、奥畑悠里さんで……合っていますか?」
「えっ?あ、はい。私が奥畑ですが……」
なぜ経営企画部の社長令嬢が自分の名前を知っているのか、動揺する悠里に紗彩はふわりと柔らかい笑みを向けた。
「私、結城紗彩と申します。実は丹波さんから、奥畑さんのことを伺っていたんです」
「丹波さん、から?」
「えぇ。いつも彼が、総務の奥畑さんには本当にお世話になっていると。とても優秀で、気配りのできる素晴らしい方だと褒めていらっしゃったので、通りがかりではあるのですが一度ご挨拶したいと思っていたんです」
紗彩の言葉には、一片の嫌味も、棘もなかった。
ただ純粋に、理人の仕事仲間に対する敬意と、育ちの良さからくる無垢な親愛だけが込められている。
「(……敵わないな)」
もしも彼女が、高元のように打算的で嫌な人間であったなら、まだ理人を信じてしがみつくこともできたかもしれない。
けれど、彼女は女性から見ても憧れてしまうほど完璧で、優しくて、美しい人だった。
「……とんでもないことです。私の方こそ、いつも丹波さんには助けていただいてばかりで」
悠里が精一杯の作り笑いを浮かべてそう答えると、紗彩は少しだけ頬を染めて、嬉しそうに目を伏せた。
「丹波さん、本当に素晴らしい方ですよね。頭の回転が速くて、周りへの気配りも完璧で……。私、今回のプロジェクトで彼とご一緒できて、本当に光栄に思っているんです。実は私の父も、彼のことを見込んでいましたから」
紗彩の最後の一言が、決定打だった。
彼女の瞳に宿っていたのは、理人に対する尊敬と敬意、それから仕事という枠を超えた確かな好意だった。