【1話からの長編大賞用】冴えなかった元彼が、王子様に変身して帰ってきた。
「お忙しいところお話をかけてしまってすみませんでした、奥畑さん。今後ともよろしくお願いいたしますね」
優雅に一礼して去っていく紗彩の背中を、悠里はただ呆然と見送ることしかできなかった。
ただただ格の違いを見せつけられているようで、悠里は一人で焦っては心に余白をなくしていく。
──理人くんは、私なんかよりあの人の隣にいる方がずっと幸せになれるのかもしれない。
……いや、そんなことない。理人くんは私と一緒にいられて幸せだと言ってくれたじゃない。
仕事の帰り道、冷たい冬の風に吹かれながら、悠里はまた自問自答を繰り返していた。
理人を愛している。手放したくない。
けれど、彼のこれから先のキャリアと本当の幸せを考えたとき、今の自分が隣にいることは理人の人生にとってプラスになるのだろうか。気づけば悠里はそんなことばかり考えてしまっている。
「ただいま……」
真っ暗な家に帰っても、今日は誰もいない。
──そもそもこの家は理人のものだ。私が安易にただいま、なんて言ってもいいのか。
いつもなら考えない余計なことが、今日はここぞとばかりに頭の中に渦巻いている。
シンと静まり返るリビングに入ると、ダイニングテーブルの上にはラップに包まれたオムライスが置かれている。
その横には置き手紙も添えられていて、悠里はそっとそれを手に取ってメッセージを読んでいく。
『お疲れ、悠里ちゃん!今日は午後から新幹線に乗るから、久しぶりにオムライスを作ってみました。だいぶ上手に出来上がったから、夜お腹が空いたら食べてみてね。今日はなんと冷蔵庫の中にビーフシチューもあります!温めて一緒に食べると最高かも。あと、今日も寒いから暖房つけてゆっくりお風呂に浸かってね。理人より』
理人の優しさが、今の悠里には毒だった。
「うぅっ、理人くん……っ」
悠里はその場に蹲って泣き崩れた。
今、一番会いたい人からの愛がそこにあった。
けれど、それを素直に喜べない自分に悠里は疲れ果ててしまっていた。
普段は理人と一緒に眠っている広いベッドに一人で横になってみても、一向に眠気はやってこない。目を瞑ればまた頭の中での自問自答が繰り返されてしまう。
眠れないから少しずつ悠里の気力は削がれていって、そして食欲もなくなっていく。
そんな負の連鎖に追い討ちをかけるように悠里を待っていたのは、出社してすぐのことだった。
「──奥畑ちゃん、ちょっとこっち来て!」
重い足取りで総務部のフロアに入ると、朝イチで真紀子たち先輩組に腕を掴まれて隅へと引っ張られる。
真紀子や奈美にいつもの朗らかさは微塵もなくて、神妙な面持ちで悠里のことをみつめた。
「あ、あの、どうされましたか?」
「あのね、単刀直入に聞くけど……奥畑ちゃん、あの王子と同棲してるって本当なの!?」
「……え?」