【1話からの長編大賞用】冴えなかった元彼が、王子様に変身して帰ってきた。
真紀子の予想外の言葉に、悠里はハッと息を呑んだ。
辺りを見渡すと、周囲の視線がチクリと悠里の背中に突き刺さる。社内のあちこちから声を押し殺したような囁き声が聞こえてきた。
『……ねえ、聞いた?丹波さんと総務の奥畑さんって同棲してるらしいよ?』
『嘘でしょ? だって丹波さんと言えば結城社長のお気に入りでしょ?娘との縁談の話も挙がってるらしいじゃん?』
『いやぁ、流石に奥畑さん勝ち目ないでしょ……』
『まぁでも、相手があの王子様ともなれば手放したくはないよねぇ』
「(どこから同棲の話が漏れたの?誰かにまた見られた?それとも……高元さんのせい?)」
だんだんとパニックに陥っていく悠里がどれだけ噂の出所を探したところで、それがわかるはずもなかった。
ただ、好奇の目で見てくる社員や、率先して噂を流す社員。理人に好意を寄せていた社員からの嫉妬混じりの嫌な視線に、悠里は一瞬にして青ざめていく。
「本当なの、奥畑ちゃん?」
真紀子の念を押したような問いかけに、悠里はそっと頷いた。
「(どうしよう、理人くんに迷惑が……っ)」
最悪なことに、理人は十日間の長い出張で今ここにはいない。
よりによってこのタイミングでバレてしまったという絶望感と、頼れる人がいないという孤独感に、悠里は足元から崩れ落ちていくような感覚に襲われてふらついた。
「嘘ー!おめでとうじゃん!」
「あたしたちは奥畑ちゃんならやってくれると信じてた!」
「うわぁ、よかったねぇ!ってかもっと詳しく話聞かせてよ!」
「……え?」
予想もしていなかった真紀子たちの言葉に、悠里は目を見開かせて驚いた。
「だってうちらずっと奥畑ちゃんと王子推しだったからね!?ってか、王子ったらずっと奥畑ちゃん狙いだったみたいだし、うまくいけばいいなと思ってたんだけど、もう同棲までしちゃってるなんて!さすがウチら総務の花!」
「いえ、あの、でも……」
悶々と立ち込める噂話を吹き飛ばすように、真紀子や奈美たちのパッと明るい声が響き渡る。
それと同時に真紀子はクルッと振り返って、廊下に屯っている社員たちに向かって大きく口を開いた。
「ちょっとそこのアンタたち……!さっきからコソコソとうるさいのよ!」
パンッ! と、真紀子がわざとらしく大きな音を立てて手を叩くと、彼女たちは吃驚しながら走り去っていった。
「あ、あの、仁科さん、なんで……」
「心配しないで、奥畑ちゃん!あたしらくらいの年齢になるとね、そこそこお局感あるから一番効くのよ!」
「いや、真紀子。奥畑ちゃんが聞きたいのは多分そっちじゃないから」
「えぇ!?」
「もういいや、あたしから言うね」