【1話からの長編大賞用】冴えなかった元彼が、王子様に変身して帰ってきた。
真紀子と違って普段は落ち着き払っていてあまり率先して喋ることはない奈美が、悠里の肩にポンと手を置いて微笑んだ。
「あのね、奥畑ちゃん。別に同棲って悪い事じゃないじゃん?それに、うちは社内恋愛禁止とかないし、むしろあたしも真紀子も社内恋愛、社内結婚だからね」
「そ、そうだったんですか」
「そう。だからあんな噂は毎日のように流れてんのよ。学生のときもあったでしょ?誰々が付き合ったとか、別れた、とかさ?それと一緒。だからいちいち気にしなくていいから」
今にも泣きそうになっている悠里の頭をそっと撫でた奈美のあたたかい手に、いよいよ涙がこぼれ落ちてくるのを必死で俯いて隠す。
こんなにも自分のことを思って励ましてくれたり怒ってくれたりする人たちに出会えたことが、悠里にとって何よりの宝だった。
「そうだよ、奥畑ちゃん!王子様が選んだのが、結城さんや他の誰でもない奥畑ちゃんなんだもん!自信持って大丈夫よ!」
「結婚式には絶対呼んでよ?」
「ブハッ!奈美ってばそれは気が早すぎるでしょ!」
「ってか、今日みんなで久々にランチでもしない?いつものあのパスタ屋で」
「大賛成!ねぇ、奥畑ちゃんも行くでしょ!?」
「……はい、ぜひ」
真紀子たち三人の先輩の存在だけが、今の悠里にとって唯一の救いだった。
「仁科さんも、佐藤さんも、皆さん……ありがとうございます」
深々と頭を下げてお礼を述べた途端、始業のチャイムが鳴り響いた。
真紀子は「やばい!戻ろ!」と言いながら慌てて自分のデスクへと戻っていく。
少し前までどうしようもなかった悠里の心は、落ち着きを取り戻していた。
〝王子様が選んだのが、結城さんや他の誰でもない奥畑ちゃんなんだもん!〟
真紀子が最後に言ったあの言葉が、悠里の頭の中にずっと残っていた。
「……選ばれた、か」
理人が帰ってくるまで、あと三日。
悠里は無性に彼に会いたくなった気持ちをグッとしまい込んで、備品の在庫チェックのために席を離れた。
「──言っとくけど、俺じゃないからね」
「ひゃっ!」
在庫室で備品の棚卸しをしていた悠里の背後から突然ぶっきら棒に声を投げたのは、高元だった。
悠里が慌てて振り返ると、ポケットに手を突っ込みながらあからさまに大きなため息を吐いている。
「た、高元さん?どうしてここに?」
「理人との同棲のことバラしたの、絶対俺じゃないから」
「あの、えっと」
「むしろ俺は昨日、他の部署の人から何か知ってるかって聞かれたとき、全力で否定してきた側だから」
「そ、そうだったんですね。すみません、変な気を遣わせてしまって」
「そこんところ、ちゃんとあのエセ王子に言っておいてよ?じゃないと俺、またガン詰めされるから。マジであいつの裏の顔、ヤバすぎるんだからな!?もう懲り懲りだよ」