【1話からの長編大賞用】冴えなかった元彼が、王子様に変身して帰ってきた。
そのとき、ピンポーンと軽快なインターホンの音が鳴り響いた。
こんな夜遅い時間に宅配便の予定はない。不思議に思いながらモニターを覗き込んだ悠里は、ハッと息を呑んだ。
「理人、くん……っ?」
どうして今、悠里の新居の玄関前に彼が立っているのだろうか。
理人は今、紗彩と一緒に出張へ行っているはずだ。
慌てて玄関のドアを開けると、そこには肩を揺らしながら息を切らした理人が立っていた。
いつもの完璧なスーツ姿の王子様とはかけ離れた、シワになったスーツに緩んだネクタイ姿。そして風に煽られたのか髪の毛は至るところが跳ねていた。
「ちょっ、ちょっと待って悠里ちゃん!自分からピンポンしたくせにごめん!俺、今めっちゃダサい格好してるかも!」
「……っ」
「何も考えずにここに飛んできちゃったから……っ!あの、一旦車に戻っていい!?」
「あ、いや、中で直して……」
これは現実だろうか。それともただの都合のいい夢?
わたわたと忙しなくボサボサになった髪を整えている理人が、住所を教えてもいないのにここへやってくるはずがない。
「お、お邪魔しま──……」
……そうだ、こんなの何かの間違いに決まっている。
「や、やっぱり待って!」
反射的に理人を迎え入れそうになった自分に喝を入れて、大きく開こうとした玄関の扉をグッと握って引き寄せた。
「えぇ!?」
「な、なんで私の住所教えてないのにわかったの?どうして、今ここにいるの?出張中でしょ!?縁談の話は?紗彩さんとの関係は!?」
「……」
「全部、答えてくれなきゃ嫌だ……っ。だってこんなの、おかしいもん」
玄関の取手を握りしめながら、悠里の目から涙が零れ落ちた。
理人に会えたことの嬉しさと、どう考えてもおかしいと混乱している悠里の感情が激しく交差する。
「……うん。今日はちゃんと答えを持ってここに来たんだよ」
「答え?」
「そう。悠里ちゃんが考えてって言った、俺のこれから先の話の……答えをね」
「……っ」
理人の答え──……。つまり、もしかしたら今日で理人とは一生会えなくなるかもしれない未来があるということになる。
不安のあまり目が泳ぐ悠里と違って、理人は一切揺らぐことなく真っ直ぐな瞳が彼女を捉えて離さない。