【1話からの長編大賞用】冴えなかった元彼が、王子様に変身して帰ってきた。
「……え?」
「ほ、本当にごめんね!?悠里ちゃんは自立してちゃんと自分の足で歩いていくって決めてたのに、勝手にこんなこと言っちゃって……!」
「……結婚?」
「あの、でも、これは単なる言い訳とかじゃなくって、俺は本気で──……」
バタバタと落ち着かない理人はそこまで言って、ゴホンと一つ咳払いをすると再び悠里の目をしっかりと見つめた。
「俺ね、悠里ちゃん。本気で悠里ちゃんと結婚したいって……思ってます」
理人の顔は真っ赤に染まっていた。
いつもならここで両手で覆ってしまうところだけれど、今だけはしっかりと悠里から目を逸さなかった。
「──俺と、結婚してください」
それは、理人の一世一代のプロポーズ。
ヨレたスーツに、ボサボサなヘアスタイル。
本当はもっとちゃんとしたプロポーズの仕方を理人はこれまで何百回と想像を膨らませてきていた。
けれど、彼女のことを誰にも取られたくない。
その一心から出てきた告白が今日だった。
悠里はひたすらに目を大きく見開いて、口元を両手で押さえながら驚きのあまり声を失っている。
「悠里ちゃんは過去の十年に固執するんじゃなくて、未来の十年先を考えてみてって言ったよね。俺ね、あのあと一人でちゃんと考えてみたんだ。悠里ちゃんとの未来だけじゃない、自分の人生の先のこと」
理人はそこで言葉を区切って、ふうっと小さく息を吐き出した。
自分の中で出した答えを、何一つ余すことなく悠里に伝えるために言葉を選びながら紡いでいく。
「でもね?俺はやっぱりどの未来を想像してみても、悠里ちゃんがいない未来の楽しみ方がわからなかった。……きっと俺は一人になったとしても仕事はすると思う。ご飯だって食べると思う、食べなきゃ死んじゃうからね」
「……うん」
「でも、何一つ楽しくはないんだと思う」
「え?」
「悠里ちゃんに格好いいって思われたくて仕事を張り切ってた。悠里ちゃんと一緒に食事をするから美味しく感じられてた。君と一緒に眠れるから……また明日も頑張ろうって、思えてた」
理人の声が、だんだんと揺らいでいく。
いつもはすぐに隠れて誤魔化そうとする理人が、今はまるで世界で一番大切な宝物を乞うような、そんな切実な顔を浮かべていた。
「悠里ちゃんが自分の家を持って、ちゃんと自立したいっていうならそれでも全然構わない。俺が毎日ここに通うから」
「理人くん……っ」
「やりたい仕事も、やってみたいこともまだまだたくさんある。でもそれは全部自分の力で勝ち取っていくから、だから──」
理人はゆっくりと膝をついて、そっと悠里の手を取った。
「だからどうか、俺のこの先の人生も……悠里ちゃんと一緒にいさせてくれない?」
それは、悠里が心の中で密かに願っていた『次の未来でも、私を選んで』という切実な祈りが、最高の形で叶えられた瞬間だった。
キラキラした王子様じゃない。
ボサボサの頭で、ヨレたスーツ姿で、歪んだネクタイの彼が、悠里を選んだ──。
悠里はそんな理人のことが、世界で一番愛おしいと思った。