【1章だけ大賞長編用】冴えなかった元彼が、王子様に変身して帰ってきた。
けれど、当の本人はその称号を喜んではいなかった。
八の字に眉を下げて俯きながら、恥ずかしそうに悠里のほうをチラリと見る。
二人の目が合わさったとき、悠里は初めてきちんと理人の顔をきちんと見たような気がした。
「(理人くんって、こんな顔してたんだ)」
清潔感のある綺麗な黒髪に、平行幅の二重の瞳。長いまつ毛に、口元にある小さなホクロ。
過去のことはどうであれ、今では誰もが彼を見て『王子様みたい』と口を漏らしても違和感を持つ人はいないだろう。
「でも、理人くんはちゃんと成長できているって証拠だよ。職場のみんなから認められるくらいに」
「そ、そんなこと……っ」
「私とは、正反対」
高校時代、一度だけ放課後二人で入ったファミレスで、理人はすべて悠里と同じものを注文し、緊張のあまり運ばれてきたお冷をこぼし、最後まで目を合わせられず、会話も何一つ噛み合わなかった。
けれど今ではどうだろう。悠里にメニュー表を読みやすいようにそっと差し出し、迷っていたメインをどちらも注文してくれてシェアしようと提案し、ワインのオーダーの仕方まで完璧だった。
最後に「悠里ちゃん、甘いもの食べられる?」とデザートまで用意してくれる理人のことを、遠い存在になってしまったのだと感じた。
輝かしい高校時代を過ごした悠里にとって、二十代最後の年に振られ、半年間の無職生活を送り、自分の家すらない今の転落ぶりは鼻で笑わずにはいられないほど情けないことだった。
自分のことを嘲笑うようにそう言って笑った悠里の表情を見て、理人はピタリと体の動きを止める。
「悠里ちゃん、何かあった?」
「……」
「俺でよければ、話を聞かせてくれない?」
「……っ」
「あ、えっと、その、もちろん話せる範囲のことだけで大丈夫だよ!無理には絶対……聞かないからね」