【1章だけ大賞長編用】冴えなかった元彼が、王子様に変身して帰ってきた。
理人の提案に、悠里は言葉を詰まらせた。
送ってもらう先は、元彼である裕一が所有しているマンションだ。
裕一と一緒に住んでいたマンションは誰がどう見たって悠里が一人で住めるような場所じゃない。こっぴどく振られたと言いながら、未だにそんな彼が用意した家に住んでいることを知られてしまうのが恥ずかしかった。
気まずそうに視線を泳がせる悠里を見て、理人はハッとして慌てて両手を振った。
「あ、ごめん!いきなり家までは迷惑だよね。えっと、じゃあせめて近くの駅とか、どこか明るい場所まででも……!」
「ち、違うの理人くん!迷惑とか、そんなじゃなくて……っ」
家を知られることを嫌がっているのだと勘違いしている理人に、悠里は誤解を解こうと大袈裟に首を横に振った。
「私ね、今、自分の家がなくて……ずっと、別れた元彼の家に住んでるんだよね」
「……え?」
「あ、もちろんあの人はいないよ!?新しくできた婚約者の元にいるから、私一人で住んでるんだけど。……だから、その家に送ってもらうのも悪いなって思って」
元々立地のいい場所に住んでいた裕一のマンションに転がり込むような形で同棲をはじめた悠里は、自分のアパートの契約を切って、ほとんどの家具家電を処分していた。
一刻も早く裕一の家から去りたいと思う一方で、無職の独身女に貸す家などないと言われているかのように審査はことごとく落ちるばかりで、就職先が決まった今でも今度は勤続年数を理由に応募の競り合いに負け続けている。
「いろんな不動産屋に行って家探ししてるんだけど、転職したばかりだからか、借りるのが難しくて……」
言い訳のように早口でまくし立てた悠里は、ふと、隣を歩いていた理人がピタリと足を止めていることに気付いた。
「理人、くん?」
右手に持っているビジネスバッグの持ち手をギュッと握る理人の手には、微かな怒りが帯びている。
「──じゃあ俺の家においでよ」
「え?」
「悠里ちゃんを傷つけた男の家になんて、帰らないで」
「……理人、くん?」