【1章だけ大賞長編用】冴えなかった元彼が、王子様に変身して帰ってきた。
普段の温厚で恥ずかしがり屋な彼からは想像もつかないほど、地を這うような低い声が出てきたことに悠里は驚いた。
理人からの突然の提案と、熱を帯びた真っ直ぐな瞳に射抜かれて、悠里の心臓が大きく飛び跳ねる。
「だ、ダメだよ!理人くんにそんな迷惑かけたくないし!」
「迷惑なんかじゃないよ。俺の家、2LDKで一部屋余ってるし、今の会社からも歩いて行ける距離だよ。家が見つかるまでの間だけでも、今の悠里ちゃんには絶対に都合がいいはずだと思う」
「それは、そうかも……しれないけど」
理人の提案は、条件だけでいえば悠里にとってこれ以上ないほど好都合なものだった。
けれど、いくら条件がいいからといって同じ屋根の下に住まわせてもらうことはできない。
同じ会社に勤めているよしみとはいえ、理人と悠里は元恋人関係であり、今ではただの同僚だ。
「……ううん、やっぱり私」
「指一本、触れないから」
「え?」
「悠里ちゃんの嫌がることは絶対しない。約束するよ。俺はただ、悠里ちゃんから笑顔を奪った身勝手なその男の家に……帰ってほしくないだけ」
ギュッと鞄を持つ手を握ったまま俯く理人は、なぜか切羽詰まっているように見えた。
職場で『王子様』と呼ばれていたときとはまた違った理人の雰囲気に、悠里は首を傾げながら彼の元へ歩み寄る。
「──やっと再会できたんだから、もう手放したくない」
「理人くん?」
「ねぇ、悠里ちゃん。一度よく考えてみてくれない?……ね?」