【1章だけ大賞長編用】冴えなかった元彼が、王子様に変身して帰ってきた。
***
「掃除機はかけたでしょ。洗濯物は回してるし、お風呂はもう洗ったし、トイレ掃除もできた……っと」
裕一のマンションから必要最低限のものだけをボストンバッグに入れて、悠里は理人の家で住まわせてもらうことになった。
同じ会社に勤めていても、部署が違う二人は出勤時間も帰宅時間もバラバラだった。
完全土日祝日が休みの悠里と、土曜日の朝から出勤して仕事をする理人。
「今日は悠里ちゃんの日用品を一緒に買いに行こうねって約束してたのに、本当にごめんね!」と言いながら慌てて会社へ向かう理人を見送ったあと、悠里は改めて彼のマンションをぐるりと見渡した。
「……広い家だなぁ。やっぱり理人くんってすごい人なんだ」
悠里よりも九つ年上で、課長代理という座に就いていた裕一が所有していたマンションも相当立派なものだった。
裕一は部屋が荒れていることを極端に嫌い、家具やインテリアのこだわりも強く、生活感を出さないような洗礼された家づくりを好んでいた。
けれど悠里と同い年の理人のマンションもなんら劣らないほど綺麗で大きな間取りをしている。
ただ、理人の家にはちゃんと『生活感』というあたたかさがあった。
冷蔵庫には今週の大きな予定や買わなくちゃいけないもののメモがマグネットで貼り付けられていたり、理人の趣味なのか犬や猫の置き物がささやかに飾られている。
だからだろうか、理人の家に移り住んでまだ三日目だというのに、すでに安心感がある。
「本当に、ありがたいな……」
ぽつりとこぼれた独り言は、悠里の本音だった。
家賃だって決して安くはないはずなのに、それでも理人は居候の身である悠里から生活費を受け取ろうとはしなかった。「俺が好きで来てもらったんだから」と言って笑うだけだった。