【1章だけ大賞長編用】冴えなかった元彼が、王子様に変身して帰ってきた。
ボサボサの髪の毛を手櫛で整えながら駆け足でリビングへ向かう。
「ご、ごめん理人くん!私、寝坊しちゃって……!昨日も寝落ちしちゃってたみたいで、その、すぐ朝ごはん用意するね」
早口にそう言いながら、悠里は自分のエプロンを手に取ってキッチンへ向かうと、そこにはフライパンを片手に握る理人の姿があった。
見慣れたスーツ姿じゃない、大きめのパーカーとジョガーパンツという部屋着姿の理人はなんだか新鮮だった。
「悠里ちゃんおはよう。よく眠れた?」
「へ?あれ……理人くん?」
「あ、ちょっと今火使ってて危ないからこっち来ないほうがいいかも。油ってこんなに跳ねるんだね……って、アチッ!」
不慣れな手つきでコンロの火と格闘している最中だった。
「もしかして朝ごはん、作ってくれてるの?」
「うん、ただオムレツって難しくて。初心者の俺にはちょっと早かったかも」
「……なんで」
悠里が大学の時に上京して一人暮らしを始めてから今まで、誰かに朝食を作ってもらうのは初めてのことだった。
裕一と同棲していたときでさえ、どんなに体調が悪かろうと食事を出されたことはなかった。
それどころか裕一には『体調管理も仕事のうちだからね』と言われる始末だった。
「だって悠里ちゃん、家の中すごく綺麗にしてくれてたでしょ?昨日だってシチューとか用意してくれてて、俺めちゃくちゃ感動しちゃって……。だからせめて朝ごはんくらいは俺が用意したくて」
「そんな、住まわせてもらってるんだしそのくらいは……」
「それに、悠里ちゃん新しい職場で気疲れしてるでしょ?覚えなきゃいけないこともいっぱいあるだろうし。だから休みの日くらいゆっくり寝てていいんだよ?」