【1章だけ大賞長編用】冴えなかった元彼が、王子様に変身して帰ってきた。
こんなさりげない理人の優しさが、悠里にとって信じられないくらい心に染み渡っていく。
まるでこんな自分でも大切にされるべき人間なのだと、そう思わせてくれる。
〝すまない、悠里。もう君とは付き合えないことになった〟
〝僕はこの人と──……結婚することになったから〟
裕一に傷つけられた悠里には、理人の思いやりや優しさが何倍にもあたたかく感じられた。
けれど、その一方でこの優しさに溺れてはいけないのだと警告するもう一人の悠里がいる。誰かに縋ってしまえば、もう自分の足で立ち上がることができなくなりそうで怖くなるからだ。
「でも私……っ、生活費も払ってないし、こんな立派なマンションに住まわせてもらってるし、ご飯くらい私がしないといけないから、今度からちゃんとするね」
「……」
「あ、掃除とかも、もっとこうしてほしいとか要望があったら言ってね?家事は割と得意なほうだから」
理人に甘えっぱなしはダメだ。
せめて自分ができることくらいはやっておかないと。
「──……俺は家政婦さんが欲しくて悠里ちゃんをここに呼んだわけじゃ、ないよ?」
「え?」
理人のいつになく真剣な声色が悠里の耳に届いた。
そんな声色とは裏腹に、理人どこか切なそうに俯いている。
「期間限定ではあるけど、今この家は悠里ちゃんのものでもあるんだよ?だから遠慮なんてしないで。休めるときはちゃんと休んでほしいし、毎日……笑っていて、ほしい」
「理人、くん」
少しずつ理人の顔が赤く染まっていく。
いつもならその顔を隠そうと両手で覆ってしまうけれど、今回ばかりは目を泳がせながらもしっかりと悠里だけを見ていた。
「だから家事も二人で一緒に分担しよう?全部一人で抱え込まないで、いい?」
「本当にいいの?そんなの、理人くんになんのメリットもないんだよ?」
「悠里ちゃんがいてくれるだけで俺にとっては幸せすぎるっていうか」
「なっ!そ、そんなこと……ないよ」
「あ!い、今のなし!心の声が漏れた!ごめん!」
「……ぶっ。なにそれ」
「あぁ、やっちゃった最悪だ」