【1話からの長編大賞用】冴えなかった元彼が、王子様に変身して帰ってきた。
今まで見たことがないほどの焦りを見せながら、悠里の頭を膝に乗せる理人の顔は真っ青になっている。
それどころか帰ろうとしていた真紀子や美桜までもが集まりはじめて、大事になってしまっている。
大丈夫、大したことじゃない、寝不足で少しふらついただけだと言いたいのに、うまく言葉が出てこない。
「なんで……理人、くんが?」
「悠里ちゃんが毎日遅くまで仕事してるから、手伝おうと思って……。あと、仕事の配分がおかしなことになっていないかどうかも心配で来てみたら、こんなことに……っ」
「あの、もうほとんどできてるから……売り上げの推移と、食品科目の分析……」
今日で終わらせるはずだった。
完璧にこなして恩田に堂々とメールを返信するつもりでいたのに。
やっぱり自分は情けない人間なのだと、悠里は自己肯定感を極限まで下げていく。
「……売り上げの推移と食品科目の分析?何のこと?」
「最後までできずに……っ、ごめん、なさい」
そう言って目を瞑った悠里に、理人の心臓は壊れてしまうほどに大きく不穏な音を立てた。
「……悠里、ちゃん?」
力なく意識を手放してしまった悠里を、理人は人目も気にせず無言で抱き抱えて医務室へと向かっていく。
真紀子たち先輩組もそのあとを追うように悠里の鞄を持って理人について行った。
そして悠里をベッドに寝かせて産業医を呼ぶと、理人は再び総務部に戻って悠里のデスクへ足を運ぶ。
開かれたままの悠里のパソコンの画面には、理人が担当しているプロジェクトの資料データの集計表がいくつも映し出されていた。デスクには山積みの資料やファイルが所狭しと置かれていて、それらもすべて悠里には全く関係のないものばかりだった。
「……悠里ちゃん、なんで?」
どうして担当でもない自分のプロジェクトの仕事を悠里ちゃんが?
この仕事は誰にも頼んではいない。大事な過去データだから自分でまとめるはずのものだった。
「……いや、違う」
そこでふと思い出したのは、秘書である恩田の言葉だった。